月別アーカイブ: 2023年6月

アカデメイア ジュエリーシリーズ「フランス初代大統領夫人のシャトレーヌウォッチ、ブレゲの時計」

いよいよ「宝飾品 ~肖像画の中にみるジュエリー~」講座最終回となりました。時代ごとに肖像画を鑑賞しながら、その肖像画に描かれているジュエリーについて深めていく講座、G.I.A.G.G.の資格を持つ目黒先生ならではの、宝石そのものの理解にもフォーカスしています。

ただし今回の宝石は「鉱物」「石」ではありません。シャトレーヌウォッチです。シャトレーヌって?

聞きなれない方もいらっしゃるかもしれません。シャトレーヌという言葉が初めて登場したのは1828年のイギリスのファッション雑誌の掲載によるものですが、この言葉の意味するジュエリーは18世紀からありました。

V&A 所蔵 シャトレーヌ 1850年ごろ

シャトー(城)が起源のシャトレーヌ(女城主)に由来し、鍵をはじめとしてアクセサリーを吊るす形態なのですが、これもさらに深掘りしていくと、古代ギリシア・ローマ時代の衣服に腰紐の飾りという文化があり、ルーツはそこまで遡れるのではないか、というのが目黒先生の発見。本当に歴史って面白いですね。何かが創作される際、ゼロから生まれるものはほとんどなく、必ず潜在的に過去の文化の影響を受けている、と考えると、アンティークの存在は現代の創作にも結びついていくわけです。

今回の「シャトレーヌウォッチ」とは、シャトレーヌにぶら下げた時計で、時計もジュエリーの一種なのですね。(ちなみに置き時計、掛け時計は装飾美術の分野としては家具の扱いになります。)ジュエリーを制作するジュエラーにとって、このシャトレーヌは腕の見せ所でもあったようで、従来の金銀細工師としてのプライドを満足させるアイテムだったようです。

今回の肖像画はエリーズ・ティエール。この名前を聞いて「ああ、あの人」とわかる人はほとんどいないでしょう。フランス第三共和政の初代大統領夫人です。そもそも初代大統領ですら歴史上の有名人とは言い難いのですが…。

この何気に地味な大統領夫人ですが、夫(つまり初代大統領)は研究者でもあり、その夫の功績が現在パリ9区Saint-Georges広場に19世紀フランス歴史専門の図書館(「ドヌズ・ティエール財団」)として現在も残っています。そしてこの図書館の建物こそが、大統領夫人エリーズ・ティエールの結婚時の持参金だったという、フランスの典型的な「持参金付妻と裸一貫の夫の玉の輿婚」だったようですね。そして妻による経済支援を得ているにもかかわらず、これまたよくありがちな、夫の方は婚外女性関係をあちこちで築いていくのですが、政治の妨げにはならなかったのでしょうか。フランスならではのエピソードがこの人にも!

さて、大統領夫人エリーズ・ティエールはお金持ちだったので(その割に普段の生活は「ケチ」だったというエピソードも)、ジュエリーも熱心にコレクションし、特に天然真珠は一粒ずつ集めていたよう。スペイン女王イザベラ2世から送られたとされるパールのネックレスは、1924年のオークションでも話題になりました。

ちなみに夫人の死後、多くのジュエリーが夫人の妹によってルーヴル美術館へ寄贈されています。現在ルーヴルの収蔵品目録よると1257点あり、ジュエリー以外にも陶磁器や東洋の工芸品なども含まれているようです。

そして夫人が所有していたシャトレーヌ・ウォッチ、現在はショーメの所蔵品となっていますが、ここからブレゲの時計の話、ブレゲといえばマリー・アントワネットが注文主であった幻のN.160の話、ジュエリーメゾンのショーメがブレゲの復活を手がけたという話、とどんどん深い話になっていきます。

見逃した方、オンデマンドでぜひお楽しみください。

またアーカイブ講座としても第1回よりご視聴いただけますので、これを機にジュエリーについて学びたい方も後追い大歓迎です。

さて、一旦ジュエリー講座は今回これで終了となります。目黒佐枝先生、5ヶ月に渡っての充実した講座を本当に有難うございました。


愛のヴィクトリアン・ジュエリー展とホテル・オークラでのティータイム

6月のAEAOサロン倶楽部その2は、大倉集古館で開催されている「愛のヴィクトリアン・ジュエリー展ー華麗なる英国のライフスタイルー」展見学を行いました。まずは見学前にミニ・レクチャーを目の前のラグジュアリーホテル「The Okura Tokyo」(オークラ東京)にて。先週に引き続き、ホテルごっこを楽しんでいます。

最近はコロナのリバウンドでどこも混み混みというお話ですが、改装後のオークラ東京のロビーはゆったりしていて、いつもながらの非日常空間。間接照明でほんのり照らされた明るさ(暗さ?)は落ち着きますね。さっそくロビー階の「オーキッド」でそれぞれお好きなケーキと飲み物をいただきながら、まずは懇親会。

胃と脳が幸せ状態になったところで、ヴィクトリアン・ジュエリーについてのお話です。ジョージアン、ヴィクトリアン、エドワーディアンのそれぞれの時代別ジュエリー事情、中でもヴィクトリアン時代の社会と世界情勢、そしてジュエリーの世界での歴史的な出来事ーゴールド・ラッシュやダイヤモンド鉱山の発見、カメオ・モザイクの流入、量産化とジュエリーの初カタログの誕生などーを背景として頭に入れておきます。

センチメンタル・ジュエリー、スコティッシュ・ジュエリー、ホルバイネスク・ジュエリー、ハーフパール、ジェットといった言葉の意味と実例を先に図録で見てから、さて本物を見に大倉集古館へ。

梅雨時の平日ですから幸い鑑賞者も多くなく、ゆったりと1点1点鑑賞することが可能でした。写真撮影禁止でしたので残念ながら会場の様子の写真はありません。展示会場の2階からバルコニーに出られるので、そこで一息。

地下の第3会場ではレースの展示もあり、レースを習っている方はじっくり眺めていらっしゃいました。

ミュージアムショップでは、アンティークジュエリーではないのですがヴィクトリアン時代のデザインの復刻ジュエリーを販売しており、ジェットの実物ジュエリーも手に取って見させていただきました。お話によると、ヴィクトリアン時代にあまりに流行り過ぎたためジェットがもうなくなってしまい、しばらくはジュエリーメーカーも制作できなかったのだとか。最近あらたに見つかったその貴重なジェットで、ヴィクトリアン・デザインのジュエリーを制作しているのだそうです。ジェットの原石も置かれており、その光沢や重さ(軽さ)も実感できて、とても楽しい目の保養でした。

7月のサロンはエナメルミュージアム見学です。エナメル・ジュエリーも素敵ですよね!


大正ロマン X 百段階段 ー 昭和の竜宮城でアフタヌーン・ティ

6月のAEAOサロン倶楽部その1は、ホテル雅叙園東京で開催されている「大正ロマン X 百段階段 ~文豪が誘うノスタルジックの世界~」展を訪れ、アフタヌーン・ティをいただくというちょっとレトロ&ハイソな会でした。梅雨入りした関東ですが、前夜から降り続いていた雨は幸いお昼で上がってきましたので、幸先よいです!

ホテル雅叙園は、かつて目黒雅叙園の名で、壁画や天井画、彫刻や工芸品などで館内の装飾が施されており、「東洋一の美術の殿堂」、「昭和の竜宮城」と呼ばれていました。何度かリニューアルされた現在の建物内も依然として竜宮城の名にふさわしく、あちこちにふんだんに装飾がされています。お手洗いですら、「え、ここ?」と戸惑うような豪華絢爛な空間につい撮影をしたくなりますが、お手洗いはさすがに遠慮すべきですね。デモチョットダケ。

今ではよく中華料理店で目にする回転式の円形テーブルの発祥地も、この目黒雅叙園と言われています。

さて、「百段階段」へ。1935年に建設され、現存する唯一の木造建築で、国の登録有形文化財、また東京都の有形文化財に指定されています。百段とありますが実際には九十九段で、階段の途中に7つの部屋があり、その部屋が桃山風だったり日光東照宮の系列の装飾だったりで、どの部屋も息を呑むような空間。

今回は展覧会のテーマに沿って、各部屋に明治から大正・昭和初期の文豪とその作品の世界を三次元で鑑賞する、というエンターテイメント性の高いものでした。さらに現代の人気イラストレーターや漫画家たちがイラストも添えるというコラボレーションで、スタート地点からもう若い女性やかつて若かった(!)女性たちで大賑わい。またかなりの来館者がその時代の雰囲気に思い切り浸ろうと、着物や浴衣をお召しになっていました。これも後でわかったことですが、ホテルの企画で「大正ロマン&着物ランチ」というセットがあり、レトロな着物をレンタルして楽しむ姿だったようです。

百段も一気に登るわけではないので、息が切れるというほどではありません。7つの部屋を、まるでテーマパークに入り込んでいくかのように楽しみながら、登りきりました。

スポーティな展覧会鑑賞をした後は、アフタヌーン・ティ。ホテル内のCafe&Bar「結庵」では、「大正ロマン喫茶室」を期間限定でオープンしており、そちらでメロンのアフタヌーン・ティをいただきました。

5月の研修旅行では本場ロンドンのホテルでもアフタヌーン・ティをいただきましたが、日本は「ヌン活」ブームとあって、色々なホテルがそれこそ毎月テーマの異なるアフタヌーン・ティを提供しており、その種類や発想は独特の文化を遂げていますね。今回のセイボリーには「豆腐とトマトの酸辣湯風スープ」とか「ジェノベーゼ カッペリーニ」などもあり、お茶も「メロン和紅茶」水出しメロンティ」など、今回ならではのアフタヌーン・ティを楽しみました。

セイボリーとスイーツで満腹だったので、腹ごなしを兼ねて近場にオプション(!)展覧会見学・戸栗美術館「柿右衛門の五色」展へ。古伊万里からマイセン、そして現代の十五代酒井田柿右衛門の作品まで「柿右衛門様式」とされる作品を一気に鑑賞、素晴らしい作品だらけです。じっくり五色の色を比較しながら見て回る中、館長が見えてご説明いただいたことにより、大雑把に「柿右衛門」と呼ばれるものの中にも、地域や時代によって筆の使い方、色の乗せ方、顔料染料の配合などの違いがわかってきました。作品と向き合う、本物と向き合う、この大切さをあらためて感じたひと時でした。オススメの展覧会です!