アカデメイア ジュエリーシリーズ「フランス初代大統領夫人のシャトレーヌウォッチ、ブレゲの時計」

いよいよ「宝飾品 ~肖像画の中にみるジュエリー~」講座最終回となりました。時代ごとに肖像画を鑑賞しながら、その肖像画に描かれているジュエリーについて深めていく講座、G.I.A.G.G.の資格を持つ目黒先生ならではの、宝石そのものの理解にもフォーカスしています。

ただし今回の宝石は「鉱物」「石」ではありません。シャトレーヌウォッチです。シャトレーヌって?

聞きなれない方もいらっしゃるかもしれません。シャトレーヌという言葉が初めて登場したのは1828年のイギリスのファッション雑誌の掲載によるものですが、この言葉の意味するジュエリーは18世紀からありました。

V&A 所蔵 シャトレーヌ 1850年ごろ

シャトー(城)が起源のシャトレーヌ(女城主)に由来し、鍵をはじめとしてアクセサリーを吊るす形態なのですが、これもさらに深掘りしていくと、古代ギリシア・ローマ時代の衣服に腰紐の飾りという文化があり、ルーツはそこまで遡れるのではないか、というのが目黒先生の発見。本当に歴史って面白いですね。何かが創作される際、ゼロから生まれるものはほとんどなく、必ず潜在的に過去の文化の影響を受けている、と考えると、アンティークの存在は現代の創作にも結びついていくわけです。

今回の「シャトレーヌウォッチ」とは、シャトレーヌにぶら下げた時計で、時計もジュエリーの一種なのですね。(ちなみに置き時計、掛け時計は装飾美術の分野としては家具の扱いになります。)ジュエリーを制作するジュエラーにとって、このシャトレーヌは腕の見せ所でもあったようで、従来の金銀細工師としてのプライドを満足させるアイテムだったようです。

今回の肖像画はエリーズ・ティエール。この名前を聞いて「ああ、あの人」とわかる人はほとんどいないでしょう。フランス第三共和政の初代大統領夫人です。そもそも初代大統領ですら歴史上の有名人とは言い難いのですが…。

この何気に地味な大統領夫人ですが、夫(つまり初代大統領)は研究者でもあり、その夫の功績が現在パリ9区Saint-Georges広場に19世紀フランス歴史専門の図書館(「ドヌズ・ティエール財団」)として現在も残っています。そしてこの図書館の建物こそが、大統領夫人エリーズ・ティエールの結婚時の持参金だったという、フランスの典型的な「持参金付妻と裸一貫の夫の玉の輿婚」だったようですね。そして妻による経済支援を得ているにもかかわらず、これまたよくありがちな、夫の方は婚外女性関係をあちこちで築いていくのですが、政治の妨げにはならなかったのでしょうか。フランスならではのエピソードがこの人にも!

さて、大統領夫人エリーズ・ティエールはお金持ちだったので(その割に普段の生活は「ケチ」だったというエピソードも)、ジュエリーも熱心にコレクションし、特に天然真珠は一粒ずつ集めていたよう。スペイン女王イザベラ2世から送られたとされるパールのネックレスは、1924年のオークションでも話題になりました。

ちなみに夫人の死後、多くのジュエリーが夫人の妹によってルーヴル美術館へ寄贈されています。現在ルーヴルの収蔵品目録よると1257点あり、ジュエリー以外にも陶磁器や東洋の工芸品なども含まれているようです。

そして夫人が所有していたシャトレーヌ・ウォッチ、現在はショーメの所蔵品となっていますが、ここからブレゲの時計の話、ブレゲといえばマリー・アントワネットが注文主であった幻のN.160の話、ジュエリーメゾンのショーメがブレゲの復活を手がけたという話、とどんどん深い話になっていきます。

見逃した方、オンデマンドでぜひお楽しみください。

またアーカイブ講座としても第1回よりご視聴いただけますので、これを機にジュエリーについて学びたい方も後追い大歓迎です。

さて、一旦ジュエリー講座は今回これで終了となります。目黒佐枝先生、5ヶ月に渡っての充実した講座を本当に有難うございました。