投稿者「antique-kentei」のアーカイブ

2020年春・公式海外研修は延期に

本来なら本日スタートの2020年春の公式海外研修、現況下で実施することは当然できず、秋に延期となりました。
 

 
コロナウイルスが日本で騒がれ始めたのは1月、それは中国・武漢で発生した地域伝染病と言われており、中国のお正月である春節に多くの中国人観光客が日本に来るから日本も対策をしないと危ない、とすでに防疫体制は敷かれていたものの、この時点では世界が現在のような状態になっていくとは誰が想像できたでしょう。日本では春節の観光客目当てに商売をしていた人たちが経済危機を訴える声の方が、健康の心配をする声よりも大きかった気もします。
 
当研修は現地集散型で行うため、旅行会社の役割は担っていません。しかしほとんどの参加者は飛行機に乗って海外へ行って参加するわけですから、その部分も含めて現地側のフランス人スタッフ、日本人スタッフ、関係者らとは常時協議を重ねてきました。東洋人の差別はどういう状況なのか、中国人観光客の減少によってどんな変化が起きているか、ヨーロッパにおける検疫や医療の状況はどうなのか…。
 
ニュースというのはニュースになるほど大げさなことだけがクローズアップされますので、例えば東洋人の差別はそこかしこで行われているのか、それとも心無い一例だけが事件となってニュースとなっているのか…せっかく大枚をはたいて海外に行って学びに行くのですから、嫌な思い、不快な思いをするとわかっていて出かけたくはないものです。
 
日本でのニュースは情報が操作されたり偏りがちだと言われていますから、フランス語、英語でのニュースも毎日追っていました。この時期は実に多くの情報収集に精を出し、現地に住んでいる人よりも詳しくなっていた気もします。
 
研修参加の締め切りはスタート1ヶ月ちょっと前の2月15日。直前での申し込みもあったりでこの時点では参加者もみなさん行く気まんまん、ただ普段より健康に注意してちょっと気を引き締めておかなくては、程度だったと思います。またヒアリングしている限りでは現地情勢もそう混乱はなく、むしろお得意のデモやストが期間中に起きはしないかという方が心配でした。黄色いベストの運動も相変わらず続行していましたし、12月からのストの余波も多少残っていましたから。
 
ちょっと風向きが変わったな、と感じ始めたのは2月後半、ダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に停泊していたこともありますが、日本の感染者が100人を越し、ヨーロッパでも感染者が次々と確認され始めました。そして2月末にはイタリア北部が大変なことになっていきます。
 
やがて2月末には日本で学校が一斉休校になり、大規模イベント、文化活動の自粛要請がされていきます。
 
この時点でもまだ研修地フランスは「安全圏」とされており、外務省の渡航に関する規制は何も出ていません。渡航制限も入国制限もされてはいないものの、我々日本人が快く受け入れてもらえないのでは、という心配の方が先立ちましたが、受け入れの講師陣らからは、楽しみに待っているから、と。パリでは一大イベントであるパリ・ファッション・ウィークも予定通り開催されています。
 
参加者のみなさんへのアンケートでも「せっかく予定、準備しているし、行けるのであれば行きたい」派が「場合によっては中止もやむを得ない」派よりも多勢でした。すでに予約済みの航空会社やホテルなども「中国からの渡航者なら払い戻し可能」という感じで、日本人が特に渡航を制限されているケースはありません。
 
訪問地の最終調整をし、すべての手配を整えた3月上旬、ヨーロッパが大きく戦況が変化していきます。ルーヴル美術館のスタッフが、「自分たち労働者の安全が守れない限りは開けない」とストをし3日間クローズ、やがて5000人以上の集まり禁止が1000人に、そして100人に…。私たちの研修は講師やスタッフを入れても10名未満、団体というよりは小グループですが、ちょっとこれは先行きが危なくなるかも、と楽観視してはいられなくなりました。
 
実施場所が海外だけに少なくとも開始日の2週間前には決定をする必要があり、連日現地スタッフらと多視点から協議、検証していましたが、最終的には決定日の前日になってようやく、今回は大事をとって時期を延期にしよう、という結論に至りました。
 
まだこの2週間前の時点では決行するという可能性もあったのですが、以降日に日に急速に事態が悪化していき現況に至っていますので、この時の判断に関しては本当にギリギリセーフという感があります。
 
3月24日、予定では朝10時からウェルカム・コーヒーを楽しんだ後、「建築と室内装飾様式に関する概論」「19世紀のブルジョワ宅にみる室内装飾とオブジェ」の講習が行われるはずだった地のパリでは外出禁止令が出ており、一斉休校は最悪新年度が始まる9月まで続くかもしれないというニュースも。地域によっては夜間完全外出禁止となっているところもあり、戒厳令が敷かれています。
 
世界中でこの感染が一刻も早く終息し、そして本研修が無事実施できる日を願って。

P.S. 手を洗いましょう!!


マイセン ・セーヴルの源流の古伊万里を訪ねて

多くの文化イベントが自粛要請を受けてバタバタと中止になる中、3月のAEAOサロン倶楽部もどうすべきか色々協議を重ねてきましたが、できることをできる人だけでやろう、ということになり、希望者だけで可能な限りの対策をした上で、予定通り開催されました。

平年より12日も早い歴史的な桜の開花宣言がされたこの日は、皮肉にも前日の春のような暖かさとは打って変わっての寒い一日。朝から東京の気温はどんどん下り、午後には冷たい雨は霙になり、やがて雪。そんな中ですが、参加者のみなさんの向学心と好奇心、そして楽しく生きるための食欲は健在です!

ランチ・レクチャーは渋谷界隈でありながら、中心地の喧騒とは無縁のやや離れた場所にあるレストランにて行われました。

乾杯のドリンク、前菜、リングイーネのパスタ、メイン料理、デザート、と美食を堪能しつつ、中には久しぶりに外に出てきたという人もいたのか、みなさん話に花が咲きます。

その後は専門家の方を交えてのレクチャーです。古伊万里について初期伊万里から江戸全期を通してどのように器形や文様、顔料が変化していったのか、その変化の社会的背景には何があったのか、輸出伊万里はどのような経緯で製作され輸出されるに至ったのか、伊万里に見られる江戸の美意識とは・・・。

マイセン、セーヴルのみならず多くのヨーロッパの名窯が憧れて模倣した伊万里様式。そのオリジナルの「美」の真髄を知ることにより、なぜ西洋の陶磁器窯がどこもこぞって取り入れたがったのか、そのルーツがわかりかけてきました。

伊万里様式はいまでも海外のアンティークマーケットでは人気の品、またオリジナルの古伊万里は日本でも骨董市場で目にする機会が多いかと思いますが、まずは体系的に学び、そして数ある中でも一流品を目にすることから目利への第一歩が始まります。

4月よりスタートするこの展覧会、ぜひ訪れたいものですね。コロナウイルスの影響が落ち着いて、一刻も早く文化施設が再開されますように。


灯りについての歴史〜AEAOサロン倶楽部・2月の会〜

AEAOサロン倶楽部・2月の会は「室内装飾における灯の美学」と題し、ヨーロッパにおける灯りの歴史を学びました。

イネス・ウージェル著『魅惑のアンティーク照明―ヨーロッパあかりの歴史』の翻訳者、中山久美子先生(協会認定アンティーク・スペシャリスト)をお迎えし、灯火具の歴史、燭台の種類、電気の照明とクリエーターたち、の3部構成で大変内容の濃いレクチャーをいただきました。

日本では灯りの器具がヨーロッパほど発達しなかったのか、たとえば燭台の種類にはフランス語で随分と多くの言葉があるのですが、日本語に訳すとすべて「燭台」となってしまう、やはり言葉が多くある国ではそれだけその文化が発展していた証拠だという中山先生のお話に、頷くばかりです。ロウソクを1本立てる器具と複数立てる器具で名前が異なるのですが、日本語で「ロウソク立て」以外に訳しようがないですね。英語でもキャンドルスティックとキャンドルスタンド位になってしまいますが、フランス語では非常に多くの語彙が存在しているのは、やはりそれだけ装飾品としても区別していた証でしょう。

寒く暗い冬の夜、室内で炎がゆらぐ情景は美しいものでしょうが、現代ではさすがにセキュリティの面からもキャンドルを使うことは少なくなってしまいました。でもその代わりに、多くの室内装飾家がデザイン性に長けたテーブルランプやフロアスタンド、シャンデリア、ブラケット灯を生み出し、灯りも建築や家具との調和を意識したものへとなっていきます。

アンティークの燭台は、キャンドルを敢えて灯さずに装飾品としての使い道もあり、いつの時代でも「ルイ15性様式」なるロココデザインが燭台の世界で愛され続けているのも納得です。

次回4月のサロンは、こういったアンティークの燭台を始めとする多くのアンティーク品が登場する映画『アンティークの祝祭』の試写鑑賞会を行います。どうぞご参加くださいね。