月別アーカイブ: 2023年4月

2023年度、8名のアンティーク・スペシャリストが公式認定!

アンティーク検定試験の1級取得者のうち、公式にアンティーク・スペシャリストに認定されるには年1回開催される講習会に参加することになっています。アンティーク検定の各級の資格は永久に有効ですが、最上位であるアンティーク・スペシャリストは「アクティブな」資格であり、現在でもアンティークの研究を続けている方々をスペシャリストと公式に認定しています。

昨年、一昨年はまだコロナ禍でもあり、本講習会の時期はタイミング的に講習会会場も緊急事態宣言で前日に休館になったり、県外への移動を控えるような圧力がかかっていたりで会食を行えるような状況ではなかったのですが、そもそもアンティーク・スペシャリスト講習会は、和やかにみなさんで会食&懇親をしつつ、発表を通してそれぞれのスペシャリストが思っていること、感じていること、新しく発見したことなどを意見交換しつつ、更なる好奇心を高めていきましょう、という会です。

装飾美術工芸の世界は範囲も広く、誰もがすべての分野に精通しているわけではありません。家具に興味がある人、銀器に興味がある人、版画が好きで集めている人…様々です。お互いの興味のある分野のことを紹介し合いながら、未だ知らない世界についても知識を分け合っていければ、という趣旨で行っています。

今年はようやく会食も可能な雰囲気になりましたので、まずは会食&懇親会から。ホテル・メトロポリタンの25階にあるダイニング・バー Ovest の個室にて、今月のテーマである「メキシコ」風ランチコースをいただきました。メキシコ料理のフレンチコース風でしょうか、アペタイザーまたはスープ、タコスまたはパスタ、お肉かお魚、デザートの4コースで美味しく頂きました。フランス料理ではあまり使わない香辛料がアクセントとして、料理の味をエキゾティックながらも上品に引き出しています。

ランチ後は場所を東京芸術劇場へ移動し、講習会です。まずは監修者の岡部昌幸先生のお話。最近リニューアルされたご実家を、アンティークを取り入れたインテリアにする決心をされたということで、アメリカのご友人から頂いたティファニーのランプや1940年代のアンティークのキャビネットをご披露いただき、それらにまつわるお話、また先生自ら手掛けていらっしゃる展覧会やプロジェクトのお話もいただきました。

続いて小山ひろ子先生による、「絵画の中の手芸・アンティーク・レース」のお話。永年手芸出版社の編集のお仕事をされていた先生は、お仕事の傍ら個人でアンティーク・レースの研究や蒐集を行っていたのですが、その資料的コレクションをお持ちいただき、ヨーロピアン・レースの歴史をフェルメールの「レースを編む女」の絵画から紐解いてご説明いただきました。10時間ほどの濃く深いレクチャーを20分に縮めた内容で、消化不良を起こした参加者続出・・・これは是非、アカデメイアでシリーズものとしてお送りしたいと思います。

そしてラストは中山久美子先生の最新コレクション「ちりめん本」について。中山先生はかつて版画やポスターのコレクションを多く持つ川崎市市民ミュージアムで学芸員をされていた方ですが、このちりめん本も木版印刷です。和紙に印刷し、ちりめん状に加工して和綴じした絵本のことを「ちりめん本」と呼び、明治中ごろから昭和10年ごろまで作られていたもののようです。外国人の日本土産として人気が出たことで、外国人向けを意識した内容になっているとのことで、今回は中山先生が手に入れられた4冊をお持ちいただいたのですが、どれもこれも「可愛い」「愛らしい」という声が上がるものばかり。果たしてこれは西洋アンティークの仲間入りをしても良いものなのだろうか?という疑問と共にご発表をいただきました。

本講習会は何かの答え合わせをするような研究発表会ではなく、答えのない問題について、色々考えを述べたり、疑問や思いを提起したりする場なのですが、発表者&参加者のみなさん全員で実りのある意見交換会となりました。

予定時間を若干オーバーしましたが、監修者よりスペシャリストの方々へ認定証が交付され、2023年度のアンティーク・スペシャリスト講習会は終了しました。


マラカイトのパリュールの謎とカメオ

アカデメイア「宝飾品 〜肖像画の中にみるジュエリー〜」第3回、肖像画はデジレ・クラリーを取り上げました。デジレと聞いて、ああナポレオンの元婚約者で後にスウェーデン王妃になった人だ、とわかる人は相当の歴史オタクでしょう、日本では一般にほとんど知られていない人物といってもよいと思います(日本語ウィキペディアは作成されていますが)。

デジレ・クラリー

元デジレが所有していたこの美しいマラカイトで作られたパリュールは代々デジレの子孫に受け継がれていった後、1913年からノルディック博物館にて収蔵されています。ところがデジレがこのパリュールを身に着けて描かれている肖像画は今のところ見つかりません。

デジレのパリュール(現ノルディック美術館所蔵)

そもそもマラカイトのパリュールというのは非常に珍しいものです。それが高価だからという理由ではありません。マラカイト自体が宝石の中で特に価値のある石という訳ではなく、むしろ柱などの建材に使われるような素材。当時のヨーロッパの一国の王妃がパリュールを注文しようと思ったら、他にも高価な鉱物は沢山あります。マラカイトのパリュールというのは、宝石業界に長くいらっしゃる目黒佐枝先生も、ナポレオンの最初の皇后ジョゼフィーヌのパリュールと、デジレのパリュール、この2つしか見たことがないと仰っています。

ジョゼフィーヌのパリュール

今回の「謎」とは、いったいデジレはこのパリュールを身に着けたことがあったのか否か、もしかしたら自分との婚約破棄をしたナポレオンが結婚した相手ジョゼフィーヌがマラカイトのパリュールを作っていたので、自分も対抗してただ作らせただけではないのか、件のパリュールはスウェーデン王妃になった翌年から10年間くらいの間に製作されており、その時点ではジョゼフィーヌもこの世を去っている、自分はジョゼフィーヌに勝ったのだ、という証として作らせたのでは・・・と色々想像が膨らみます。

マラカイトという鉱物について、カメオやインタリオの歴史も含め、宝石学レクチャーもいつもながらのコンプリートな解説で、あっという間の1時間半でした。カメオも2層だけでなく、8層まで存在するのだとか。今回は4層、5層の作品を見せていただきました。

「人は嘘をつくが、ものは真実を語る」と言われますが、ものの中でも宝石は色々なストーリーが想像されて、更なる好奇心が沸き起こってきますね。

次回はウージェニー皇后とエメラルドについてのお話をいただきます。


雨の中の鎌倉にて、英国アンティーク博物館BAMと鏑木清方記念館

4月のAEAOサロン倶楽部は鎌倉遠出(?)をしました。昨年秋にオープンした話題の英国アンティーク博物館BAMを訪ねたい、と予々思っており季節的にも散策の楽しい4月を待ってこの日に設定したのですが、生憎の雨模様。台風であれば中止にするところですが、もうすでにお昼のガストロノミックなランチも予約済み、雨雲如きに負けていられるか、ということで決行です。せっかく満席になったことですし。

雨の日は電車も遅れがちですが、全員集合時間前に揃い、まずはランチでスタート。以前GW期間中に鎌倉に来たことがある、という参加者さんは「あの時はすごかった、改札を出るのに30分、待ち合わせた友人は1時間かかった」、また別の参加者さんも「以前来た時は人、人、人で歩けない、進めない、飲食店はどこも満席、トイレすら困った」という人気スポット・オーバーツーリズムの鎌倉ですので、却ってこの雨で人出も抑えられたのかもしれません。

最初に向かったのは、小町通りとは逆側にある、琵琶小路にある「ラ・コクシネル」。クオリティの高い鎌倉フレンチです。鎌倉の焼き野菜などもふんだんに使われており、大満足な味。団体での予約でしたので事前の連絡時に、その後でBAMに行くんです、と世間話をしていたところ、なんと従業員の方はかつてBAMでお仕事されていたとのこと、また前日にもこちらでお食事をした後にBAMに向かうお客さんがいらしたのですよ、とお話いただき、親近感が増してしまいました。とにかく何を食べても美味しいので、お昼も満席でした。早めにリザーブしておいてよかったです。

そしていよいよ英国アンティーク博物館BAMへ。鶴岡八幡宮のすぐ近くにあります。隈研吾氏の設計で、小さいながらもこの建物にジョージアン時代、シャーロック・ホームズの部屋、ヴィクトリアン時代の室内装飾品がぎっしり詰まっています。館内ガイドとして、QRコードから館長の解説動画が再生できるようになっており、館内でそれを聞きながら鑑賞できます。写真撮影もOK。展示物に対して歩き回れるスペースが狭いのが残念ですが、この日も雨にもかかわらず多くの来館者で賑わっていました。銀器コレクションは圧巻でしたし、ジョン・ロブの靴の木型のコレクションもなぜこれがここに!?という珍しいもの。ホームズのヴァイオリンだけでなく18世紀末に製作されたというハープ、ヴィクトリアン時代のピアノ、と楽器も色々展示されていました。

BAMを出た後は、小町通りを横切って、鏑木清方記念美術館へ。「清方、鎌倉に住まう」展が開催されていました。東京・神田生まれの鏑木清方は、戦後は鎌倉で活動の場を求め、亡くなるまで鎌倉で過ごしていたそうです。没後、遺族が土地建物と作品を鎌倉市に遺贈したことで記念美術館になっています。

画風とこの建物がとてもマッチしていて、安らかな気分に浸れる美術館でした。

外はまだ雨がしつこく降り続いていますが、小町通りはそれでも賑わいを見せていました。至る所で「食べ歩き禁止」となっているのは、晴れていたらそれこそすごい人出なのを窺わせます。この日は普通に歩けたのも吉と出たと思うことにしましょう。みなさんそれぞれ鎌倉のお土産などを買い込み、帰途につきました。

5月以降のAEAOサロン倶楽部、近日中にupしますので、どうぞお楽しみに!


春の遠足は、笠間で散りゆく桜とともに

4月初旬の暖かい晴れた日、AEAOサロン倶楽部で笠間へ遠足に行ってきました。笠間日動美術館にアンティーク・ドールのコレクションが展示されていると聞き、このプランを最初に計画したのが2021年4月。しかし残念ながら緊急事態宣言となり、「県外への移動は避けてください」「県外の方は来ないでください」とそれぞれの知事が訴えており、敢えなく断念。今回はそのリベンジです。

みなさん笠間は「遠い」「交通が不便」という印象を持っているのか、他のサロンに比べると集まりが少なかったのですが、上野から特急ときわに乗れば1時間で着くのです。おそらく通勤圏でしょう。私たちは通勤の人たちとは逆方向ですので、当日の出発15分前に指定券を購入し、それでもみなさん隣同士で希望の席が取れました。友部駅に着いて、かさま周遊バス(これも特急の到着時間帯に合わせてあるようなタイムテーブルが組まれています)で、まずは笠間日動美術館へ。

当館学芸員の塚野氏が迎えてくださり、アンティーク・ドール部屋まで案内してくださいました。フランスのドールとドイツのドールがそれぞれのショーケースにまとめて展示されており、圧巻です。なぜこれだけのコレクションがこの美術館に収蔵されているのか、についてもお話を伺いました。オリジナルの衣装など、なかなか本国フランスでも見ることができないものも多いのです。

笠間日動美術館の常設コレクションもどれも素晴らしいものばかりですが、今回は特別展で岸田劉生展も開催されていました。誰もが美術の教科書で見たことのある、あの「麗子」を描いた画家です。またお隣の展示室「鴨居玲の部屋」もとても興味深い展示でした。

緑あふれる贅沢な敷地の笠間日動美術館から歩いてすぐのところが笠間稲荷神社と門前通りのある中心地。ここで蔵を改造したような庭カフェKULAでランチをいただき、次なる目的地は春風萬里荘です。もともと鎌倉にあった北大路魯山人の住居がこの笠間に移築され、日動美術館の分館となっています。

地図上にあるはずのかさま周遊バスの停留所が見つからず、あたふたしているところへやってきたバスを無理やり止め(!)、春風萬里荘へ。時空間が全く異なる世界にワープしたような静けさ。魯山人のお風呂やトイレまでもが展示品です。

1時間ほどゆっくり館内や庭などを散策、茶屋であんみつもいただいて、またかさま周遊バスへ。帰りの特急の本数があまりなく、今回はこれにて駅から上野へ戻ったのですが、焼き物に興味がある方は茨城県陶芸美術館を始め、やきもの通りやギャラリーロードなどを回ってショッピングをしたり、焼き物を体験することもできるようです。

帰りの特急もギリギリでしたが指定席を予約、無事みなさんで一緒に座れてあっという間に上野へ到着。

このところインバウンドが復活して、どこもかしこも混雑しているという話を聞きますし、メジャーな観光地(京都など)はトンデモナイことになっているようですが、笠間では本当にのんびりゆったり自然を味わうことができました。空が広く、二階建ての建物が「高い!」と思えるほど、贅沢な空間が広がっています。車の街ではありますが観光客にも優しいインフラが整っていることがわかり、今度は紅葉の季節にも訪れてみたくなりました。