アンティーク検定試験の1級取得者のうち、公式にアンティーク・スペシャリストに認定されるには年1回開催される講習会に参加することになっています。アンティーク検定の各級の資格は永久に有効ですが、最上位であるアンティーク・スペシャリストは「アクティブな」資格であり、現在でもアンティークの研究を続けている方々をスペシャリストと公式に認定しています。
昨年、一昨年はまだコロナ禍でもあり、本講習会の時期はタイミング的に講習会会場も緊急事態宣言で前日に休館になったり、県外への移動を控えるような圧力がかかっていたりで会食を行えるような状況ではなかったのですが、そもそもアンティーク・スペシャリスト講習会は、和やかにみなさんで会食&懇親をしつつ、発表を通してそれぞれのスペシャリストが思っていること、感じていること、新しく発見したことなどを意見交換しつつ、更なる好奇心を高めていきましょう、という会です。
装飾美術工芸の世界は範囲も広く、誰もがすべての分野に精通しているわけではありません。家具に興味がある人、銀器に興味がある人、版画が好きで集めている人…様々です。お互いの興味のある分野のことを紹介し合いながら、未だ知らない世界についても知識を分け合っていければ、という趣旨で行っています。
今年はようやく会食も可能な雰囲気になりましたので、まずは会食&懇親会から。ホテル・メトロポリタンの25階にあるダイニング・バー Ovest の個室にて、今月のテーマである「メキシコ」風ランチコースをいただきました。メキシコ料理のフレンチコース風でしょうか、アペタイザーまたはスープ、タコスまたはパスタ、お肉かお魚、デザートの4コースで美味しく頂きました。フランス料理ではあまり使わない香辛料がアクセントとして、料理の味をエキゾティックながらも上品に引き出しています。
ランチ後は場所を東京芸術劇場へ移動し、講習会です。まずは監修者の岡部昌幸先生のお話。最近リニューアルされたご実家を、アンティークを取り入れたインテリアにする決心をされたということで、アメリカのご友人から頂いたティファニーのランプや1940年代のアンティークのキャビネットをご披露いただき、それらにまつわるお話、また先生自ら手掛けていらっしゃる展覧会やプロジェクトのお話もいただきました。
続いて小山ひろ子先生による、「絵画の中の手芸・アンティーク・レース」のお話。永年手芸出版社の編集のお仕事をされていた先生は、お仕事の傍ら個人でアンティーク・レースの研究や蒐集を行っていたのですが、その資料的コレクションをお持ちいただき、ヨーロピアン・レースの歴史をフェルメールの「レースを編む女」の絵画から紐解いてご説明いただきました。10時間ほどの濃く深いレクチャーを20分に縮めた内容で、消化不良を起こした参加者続出・・・これは是非、アカデメイアでシリーズものとしてお送りしたいと思います。
そしてラストは中山久美子先生の最新コレクション「ちりめん本」について。中山先生はかつて版画やポスターのコレクションを多く持つ川崎市市民ミュージアムで学芸員をされていた方ですが、このちりめん本も木版印刷です。和紙に印刷し、ちりめん状に加工して和綴じした絵本のことを「ちりめん本」と呼び、明治中ごろから昭和10年ごろまで作られていたもののようです。外国人の日本土産として人気が出たことで、外国人向けを意識した内容になっているとのことで、今回は中山先生が手に入れられた4冊をお持ちいただいたのですが、どれもこれも「可愛い」「愛らしい」という声が上がるものばかり。果たしてこれは西洋アンティークの仲間入りをしても良いものなのだろうか?という疑問と共にご発表をいただきました。
本講習会は何かの答え合わせをするような研究発表会ではなく、答えのない問題について、色々考えを述べたり、疑問や思いを提起したりする場なのですが、発表者&参加者のみなさん全員で実りのある意見交換会となりました。
予定時間を若干オーバーしましたが、監修者よりスペシャリストの方々へ認定証が交付され、2023年度のアンティーク・スペシャリスト講習会は終了しました。