アカデメイアの60分で紐解く絵画「19世紀末アール・ヌーヴォーの時代の絵画」第5回最終回は、この世紀末からだんだんと増えてくる新しい表現方法の1つ、ラインブロックで描かれたビアズリーの『サロメ』の作品について学びました。
ラインブロックとは、印刷技術の発展に伴って生まれた印刷方法です。写真製版を基に印刷された複製芸術で、この方法により従来では非常にコストのかかった印刷が安価で可能となったのです。「生活に美を」求めたウィリアム・モリスのケルムスコット・プレスに比べると、その十分の一以下のコストで印刷が可能となったということで、アートが一部の富裕層のものだけではない時代の幕開けとも言える時代がやってきます。
ラインブロックの欠点は中間色が出せず、従って白か黒か、という平坦な色調になりがちですが、そのラインブロックの欠点がむしろ幻想的な美として表現されているのが、まさに今回取り上げられたビアズリーの作品。
ビアズリーのこれらの作品は、オスカー・ワイルドの戯曲の挿絵として描かれたものですが、母語である英語ではなくフランス語で先に出版され、そのフランス語が後に英訳されて英国で出版されています。ビアズリーの挿絵はこの英語版のもので、出版はできたもののワイルドが男色家であったことや内容の背徳性により、イギリスで上演できるようになったのは第一次大戦後の1930年になってからでした。ビアズリーもワイルドも19世紀末に亡くなっていますので、母国イギリスではお芝居としてよりも、むしろこのビアズリーの挿絵が評判になって有名になっていったようです。
ワイルドは46歳で亡くなっていますが、ビアズリーに至っては25歳でこの世を去っています。そしてこの挿絵を描いていたのが、わずか20歳を超えたばかりの年齢…幻想的で耽美なこの作風をこんな若さで表現できたビアズリー、もっともっと評価されてもいいアーティストの1人である気がします。
「60分で紐解く絵画」シリーズ、秋からもまた新シリーズをお届けしますので、どうぞ引き続きお楽しみに!