アンティークフェア・アンティークサロン」カテゴリーアーカイブ

in situで触れるアンティーク〜旧白洲邸 武相荘の骨董市〜

 in situという言葉があります。語源はラテン語から来ていますが、英語でもフランス語でもin situ、イン・シツと発音します。元の場所に、という意味ですが、古美術業界ではよく使用される言葉です。
 

 美術品や工芸品は、元々の場所、例えば王宮、城、館といった本来あった場所から離してしまうと、それだけで価値が半減する、と言われています。サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院にある『最後の晩餐』は、in situの状態であるが故に、またシスティナ礼拝堂の『最後の審判』もin situであるが故に、その価値があるのでしょう。
 

 ヨーロッパではときどき、どこかの城主が城の改装費捻出のために(あるいは高額な維持費のために)、城内に元々あった家具調度品をオークションなどで売り払って資金を作る、といったことがあります。その場合、プレヴューと呼ばれる内覧会はin situで、つまり城内で行うことが多いです。人はその調度品をオークションハウスのショールームで見るのではなく、実際に使われていた場、置かれていた場で見ることによって、そのものの価値を評価するのです。
 

 さて、東京都町田市に、武相荘という館があります。
 ここは、白洲次郎・正子夫妻が実際に住んでいた家であり、現在はミュージアムとして一般に解放されていますが、旧居住者が住んでいたままに保存されていますので、そこにある調度品はin situということになります。白洲正子さんは骨董コレクターとしても名高い方でしたので、そのコレクションが逸脱することなく、この館にある限り、in situとしての価値を高めていくのではないでしょうか。

buaiso 

 その武相荘で、第1回骨董市が開催されます。
 

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 日時:2015年3月15日(日)10:00〜17:00
 骨董市HP
 

 白洲正子さん旧蔵の品々も出品されるとのこと。まさにin situでの骨董品、どのようなものが出るのでしょう。
 

 春も近い季節、都会の喧噪を離れて、散策がてら遊びに来てみませんか?
 

 武相荘のHPはこちら
 


パリ、国際現代アート展FIACスタート!

 パリ国際現代アートフェアFIAC(フィアック)が本日スタートしました。
10/23~26の4日間、グラン・パレで開催されています。
 
FIAC公式サイト
 
fiac
  
 アンティーク業界の人は現代アートに関心がないのではないか?というのは杞憂で、オークショニアや鑑定家、セカンド・マーケットのアート界で働く人たちは大抵年に1度のこの盛大なアートフェア、FIACには足を運びます。現代アートはアート市場における、最も関心の高い、言い換えれば最もお金が動く分野です。そして「現代」アートがやがて「近代」アートになり、「アンティーク」になっていくのですから…。
 
 最もお金が動くマーケットだけあって、入場料も半端ではありません。
一般入場料が40ユーロ(2年に1回のアンティーク・ビエンナーレの今年の入場料は30ユーロ)、話題となるかもしれないアートを見るのには、なかなかのお値段です。
 
 さて、さきほど「セカンド・マーケット」と書きましたが、美術業界は大まかに分けて、「ファースト・マーケット(1st market / 1er marché)」「セカンド・マーケット(2nd market / 2nd marché)」という言い方をします。前者は、それが初めて市場で売られるもの、後者は1度売られたものが再販されるもの、の違いです。例えばある作家の作品を初めて扱う(販売)する場合は、「ファースト・マーケット」であり、物故作家の作品を扱う場合は、「セカンド・マーケット」となり、前者は通常ギャラリーが、後者はアンティーク業者が扱います。ですので、アンティーク業界というのは、何も何百年も経った古いものばかりを扱っているわけではなく、初販なのか再販なのか、という違いなのです。


アンティーク鑑定士の人たち

 パリ・アンティーク・ビエンナーレの研修が終了しました。
(研修生のみなさま、集中講義、お疲れ様でした。)
 

 今回の研修では2度に渡ってビエンナーレ会場を訪れました。
  
biennale1
 
biennale2
 
 ここに展示されているものは、もちろんミュージアムピース並みの逸品ばかりですが、その展示物は果たしてホンモノなのでしょうか?一流の骨董ディーラーたちの商品ではありますが、偽物が混じっていることはないのでしょうか?誰がどのようにしてその真贋を保証してくれるのでしょうか?
 

 世界中のアンティーク・骨董業界のディーラーが集うビエンナーレですから、そんな問題に当たる機関が当然存在します。
 

 今回は Compagnie Nationale des Experts(ナショナル鑑定士カンパニー)がその役に当たります。約150人のExpert-marchand(鑑定士ディーラー)を抱えるこの組織、24のカテゴリー別に、それぞれ鑑定エキスパートたちがその名を連ねています。
 

CNE
 

 そのカテゴリーを一部紹介すると、こんな分野があります。
 

銀器
オリエント及び東洋芸術
20世紀と現代装飾美術
宝石
陶磁器
16世紀〜20世紀のデッサン(素描)
時計
イコン
古書
古銭
写真
布、絨毯、タピスリー
・・・

 
 では、鑑定士にはどのようにしてなるのでしょう?
国家資格があるのでしょうか?どんな資格を持っていれば鑑定士になれるのでしょう?鑑定士は鑑定だけを生業にしているのでしょうか?
 

 追い追いお話していきましょう。
 
 


華麗なるサロン 〜第27回パリ『アンティーク・ビエンナーレ』〜

「ビエンナーレ」とはイタリア語で「2年に1回」という意味ですが、美術界のサロンではよくお目見えする言葉です。
一番有名なのはヴェネチア・ビエンナーレでしょうか。こちらは奇数年の開催で会期も長く、6〜11月くらいまで開催されています。
 
アンティーク界におけるビエンナーレといえば、偶数年の9月にパリのグラン・パレで盛大に行われる『Biennale des antiquaires(アンティーク・ビエンナーレ)』が世界最大の国際アンティーク展示会として知られています。
 
Affiche Biennale 2014

biennale-des-antiquaires-paris

1962年に始まったこのビエンナーレ、今年で第27回目を迎えます。
オーガナイザーはSNA(フランス国立アンティーク組合)
元々はコレクターやディーラー達が、世界各国を飛び回らなくても一箇所でゆっくり作品を見ながら商談できるように、という見本市のような展示会だったのが、昨今ではハイ・ジュエリー界も参入し年々豪華絢爛になり、入場料もアップの一途を辿っていて、今年の入場料は30ユーロ(日本円で約4200円)、カタログは45ユーロ(6300円)。マーストリヒトで毎年開催されるアート&アンティークサロンのTEFAF (The European Fine Art Fair) は欧州最大のゴージャスなアート見本市ですが、こちらの入場料はカタログ付で55ユーロ(7700円)ですから、パリのアンティーク・ビエンナーレの方が入場料に関してはお高いようですね。
 
今年は、更にガストロノミーの世界もコラボレーションしているようで、ビエンナーレ開催期間中の特別メニューが既にご披露されています。
 
11人の星付レストランのシェフたちによる特別メニューは毎日日替わりで、ユネスコの無形文化遺産でもあるフランス料理の神髄が味わえるようです。お値段ももちろんそれなりで、飲み物別で195ユーロ(27300円)から。
 
さて、わたしたちの公式海外研修でも、このビエンナーレをSNAの会員のガイド付で訪れます。
 
アートに関しては、ときどき「下手に美術史を勉強したり解説などを聞くと、本来の作品との対話が薄れる」等と言う人がいます。何の基礎知識も持たずに生のままで作品に向かおうとする姿勢も考え方の一つですが、アンティーク品の鑑賞に関しては、やはりそれでは勿体ないと思います。それでももしかしたらヨーロッパの人たちのDNAには何かしら感じられるものが継承されているのかもしれませんが、わたしたち日本人の生活に馴染みのなかったもの、普段から意識していない様式スタイルなどは、やはり知識ゼロと学んでから鑑賞するのでは、全く見え方が異なってきます。
 
例えばルイ15世とルイ16世の時代背景の違い、当時の社会風俗やそれぞれの奥方(愛人)の気質、そんなことを基礎知識として知りながら見る家具様式の違いは、やはり面白さが全然違いますから。
 
今年のビエンナーレはヴェルサイユ宮殿400周年にちなんだ、宮殿の庭をイメージしたインテリアとなる予定だとか。どんな内装になるのか、今から楽しみですね。