オンライン海外講習」カテゴリーアーカイブ

修復された新しい姿、ローアン館・スービーズ館の優美で豪奢なロココ装飾

2022年2月よりスタートした、パリと繋いで新アート・スポットをテーマにした講座「オンライン海外講習」、いよいよ最終回はローアン館、スービーズ館の室内装飾を学びます。

パリ・マレ地区。現在ではファッショナブルな街として、アートギャラリーや最先端のブティック、雑貨店が立ち並び、また夜はちょっと淫靡な雰囲気も漂うゲイの街としても有名ですが、この地区にオテル・パティキュリエと呼ばれる大邸宅が点在しているのは何故なのでしょう。

それは17世紀にまで遡ります。現在のヴォージュ広場と呼ばれている「王の広場」が誕生したのは1601年のこと。それ以来貴族に人気のエリアとなり、多くの貴族がこの地区に本邸を構えました。ところがやがて貴族の人気エリアがフォーブール・サンジェルマンの方へ移っていくと、元々「沼地」とされていたこのエリアが荒んでくるようになりました。1950年ごろには、このエリアはどちらかというと労働者の街だったのです・

シャルル・ド・ゴール政権下の文化大臣、アンドレ・マルロー氏はこのマレ地区を歴史文化保存地区として蘇らせる政策を取ります。この頃、例えばサレ館はピカソ美術館としてオープンするように、いくつかの館がリニューアルされ、美術館として再スタートを切ります。

今回取り上げた中のローアン館は、かつてパレ・ロワイヤル界隈に存在し1923年に取り壊され保管されていたシャンセルリードルレアンの内部装飾品を移築する計画が1960年代にあったのですが、諸事情により頓挫、そして2015年から6年ほどかけてようやく一部(4部屋)が完成し、その装飾を現在月に1度公開しており、見学が可能となったのです。まだすべての移築が終了しておらず作業が継続中のため、見学は月1度の予約制かつ内部職員と共にしかできませんが、2024年には一般公開されるとのこと。その頃にはもうかつてのように自由に海外を訪れる平和な日々がやってくるでしょうか…。

「ロココ」は室内装飾が特徴で、女性の文化とされていますが、この装飾を見るとそのことが頷けます。建物の外観からは想像できない優美で豪奢な装飾の数々、ぜひ現物をこの目で鑑賞したいですね。


パリ6館で同時開催された、イヴ・サン・ローラン展

今月のオンライン海外講習は、今年2022年がイヴ・サン・ローランのメゾン創立60周年ということで、パリの国立・市立美術館など6館で同時開催されているイヴ・サン・ローラン展をテーマに現地講師よりご紹介いただきました。

まずは装飾美術史家の小栁由紀子先生よりYSLの生涯について、その生い立ち、活動、私生活、そしてYSLの生涯のパートナーであったピエール・ベルジェとの関係について日本語でわかりやすく解説をいただきました。よく「100分で分かる」「60分で知る」といった枕詞がありますが、今回はなんと20分でわかりやすくまとめていただき、もうそれだけですべてが網羅され、日本語を解さない現地講師からもスライドで内容をすべてを理解していたようです。

そして、いよいよ今回のパリにおける展覧会の展開です。

イヴ・サンローラン美術館

ルーヴル美術館

オルセー美術館

ポンピドゥーセンター

ピカソ美術館

パリ市近代美術館

上記6館で開催されており、すでに会期終了してしまったところ、展示期間が延長されているところなどさまざまです。

これらの会場でそれぞれ数点ずつYSLの作品が展示されているのですが、イヴ・サンローラン美術館以外は特に囲った特別展のような形式ではなく、常設展示の中に併置されている形式です。もちろんどの館にどの作品を展示しているかは密接な関係があり、ピカソ館におけるYSL、ポンピドゥーセンターにおけるYSL、オルセー美術館におけるYSL、ルーヴルにおけるYSL、それぞれの作品のテーマと館やアーティストとの関係について、YSLがどれだけ同時代のアーティストらを理解し尊敬していたか、というのも分かるような企画です。

中でもルーヴル美術館におけるギャラリー・アポロン(ここは修復の度に閉まっているので「いつ行っても閉まっていた」という印象をお持ちの方もいらっしゃいました)での展示に際し、ギャラリー・アポロンがなんと完成までに200年以上かかっていたというルイ14世時代からの歴史もおさらいし、その見事なストゥッコ装飾のアップ画像を見ると、やはりルーヴルを何度でも訪れたくなるものですね。

イヴ・サンローラン美術館での展示期間が9月まで延長になりましたので、8月のプライベート海外研修時にぜひ訪れてみたいと思います。

次回7月は「修復された新しい姿、ローアン館・スービーズ館の優美で豪奢なロココ装飾」について行います。


オンライン海外講習 鬼才のジュエラー・ジャン・ヴァンドームの世界

1ヶ月ぶりのパリと繋いでのオンライン海外講習、今回はジャン・ヴァンドームの世界について行いました。ジャン・ヴァンドーム・・・誰それ?というのは普通のリアクション、フランス人でも知らない人は多く、昨年展覧会が行われるまでは宝飾業界の人や現代アートに詳しい人以外にはそれほど知られているわけではなかったのです。

Jean Vendome

ハイジュエリーメーカーとして知られるヴァン・クリーフ&アーペルは、ジュエラーのための学校を経営しています。そのエコール・ヴァン・クリーフ&アーペル(パリ)にて2021年、ジャン・ヴァンドームの展覧会が開催され、フランスでは大変な話題となりました。

展覧会の様子はこちらからも見ることができます。

この展覧会を現地で鑑賞したアンヌ・コリヴァノフより、ジャン・ヴァンドームの生い立ち、その名前の由来、職人ではなくアーティストとしてのジュエラーの哲学、シュール・レアリストたちとの関わりやその影響など、独特な世界観について教えていただきました。

ジャン・ヴァンドームの使用する素材は、決して貴石ばかりではなく、また研磨やカットのされていないsauvage(そのまんま)の状態で宝石に加工し、さらには恐竜の化石の骨やアンモナイト、蟹のハサミなども使用しています。奇抜すぎて宝石への冒涜だ!と感じた人もいたのでしょうが、いつの時代も新しいアートは既存の概念を壊して作られるもの・・・ただジャン・ヴァンドームは石と金属をとことん熟知しており、その石の最良の部分を引き立つようにデザインしているのに過ぎないのです。

この鬼才のジュエラー、ジャン・ヴァンドームの作品は昨年の展覧会により知名度も増して、今や世界各国の美術館が所蔵に躍起になっているとのこと。パリ装飾美術館ではその何点かを鑑賞することができます。

オークションでも近年値が上がっているようです。没後間もないため、まだそれほど市場に出回っていないこともありますが、すべてが1点もので、「アーティスト」的に知名度が出てきた作家の作品、今後はどのような評価を辿っていくのでしょうか。「ジャン・ヴァンドーム風」のアクセサリーはもう既にパリのショーウィンドーに並んでいそうですね。

6月のオンライン海外講習は、6月13日(月)、次回は「ルーヴル美術館のイヴ・サン・ローラン」です。


新生サマリテーヌで見る、アール・ヌーヴォーとアール・デコの面影

今年よりスタートしましたオンライン海外講習、3回目のテーマは、昨年2021年に16年の改装期間を経てリニューアル・オープンした、パリの中心に位置する百貨店サマリテーヌの外装・内装に見られるアール・ヌーヴォー装飾、アール・デコ装飾について、行いました。

まずサマリテーヌという屋号の源になった、サマリアの女とキリストの装飾が描かれた給水塔のあったポン・ヌフの歴史、サマリテーヌの創業者エルネスト・コニャックと小説家エミール・ゾラとの関係やその影響性、フランツ・ジュールダンのアール・ヌーヴォー建築にアンリ・ソヴァージュのアール・デコ建築、そして我らが誇る現代日本の建築家ユニットSANAAによる新生サマリテーヌのガラスのファサード建築を多くの写真、ビデオなどと共に見ていきました。

多くのファッションメディアで新サマリテーヌの様子は取り上げられていますが、ファッションブランド紹介やグルメ紹介程度の記事ばかりの中、今回の講習では100年に渡る建築と内装の詳細を、エルネスト・コニャックと妻マリー=ルイーズ・ジェイによる福利厚生の実態、サマリテーヌの広告によるストラテジー、LVMHグループがパリ市との契約により負った社会貢献・・・そんな数々のエピソードを入れながらのお話でした。

雑談も多く入れこんでしまったため予定時間を大幅に越してしまい、日本時間の夜19時からの開催だけに、受講者のみなさまもお疲れだったかと思います。このオンライン海外講習はオンデマンド視聴が可能となっていますので、よろしければまた再度ゆっくりと聞いていただけましたら幸いです。

次回は5月9日(月)に、ジャン・ヴァンドームの世界を繰り広げます。


オンライン海外講習、第2回は「 オテル・ドゥ・ラ・マリーヌ、よみがえった元王室家具保管所」

第1回のカルナヴァレ美術館に続き、第2回は話題注目のオテル・ドゥ・ラ・マリーヌ、パリの新アート・スポットをパリの講師とZoom中継で結ぶ講習です。

パリで有名な広場の一つ、コンコルド広場が現在の名前になるのに何度も改名された、その変遷と由来、コンコルド広場で行われた数々の歴史的な出来事について、残された版画や絵画、写真などでたどります。

そして長年一般には閉ざされていた旧海軍省オテル・ドゥ・ラ・マリーヌのあの建物は18世紀にはどんな用途で使われ、誰が住んでいたのか、革命後にどのように改修されて海軍省が使用していたのか、そして21世紀の現在、一般公開することになったきっかけやそのための改修、セノグラフィー、果ては改修に国家予算をいくら費やしたのか、建物の生い立ちから再生までをたっぷりと学びました。

<18世紀を再現したテーブルアートですが、実は19世紀と混在しています。>

今回は、まず最初に小栁由紀子先生より日本語での解説をいただいたことで、フランス語話者もそうでない方も、基本的なバックグラウンドが頭に入ったところで、実際に訪れたアンヌ・コリヴァノフ先生による詳細解説、こちらもいつものように熱が入りすぎ、また渾身丁寧な通訳も合わせると気づいたら21時となっていました。

ご参加のみなさま、お疲れ様でした。

さてフランスへの入国はワクチン接種済みなら陰性証明も不要、また14日よりワクチンパスの緩和に室内でのマスク着用義務も廃止、日本への帰国時の隔離も今月よりなくなり、いよいよ旅が出来そうかなと思った矢先のウクライナ戦争・・・早く地球上で平和が訪れますように。