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アカデメイア:19世紀のイギリスとフランス ~モノ、コト、流行~、第3回は「新しい照明:ガス灯と電灯」に関してのおはなし

19世紀になって新しく出てきたものが沢山ありすぎて…そんな中の1つ、照明にスポットを当ててみました!?

人はずっと太陽と共に起きて、日暮れと共に寝る、といった生活を地球上のどこででもしていたのはずっと前のこと、夜も楽しもうとキャンドルに灯をともして食べたり踊ったり、という生活が宮廷を中心に行われていました。中山先生によると、中世の修道院ではミツバチの巣から採れる蜜ろうそくを作っていたそう。またオイルランプも使われていました。

そんな「灯」の革命とも言うべき変化が起こるのが19世紀。やはり産業革命と市民社会の確立にも関連していますね。ろうそくやオイルランプも改良されますが、あらたに石油ランプ、ガスランプが発明され、そして今私たちが日常的に使用している電気照明へと進化していきます。19世紀最後の万博である1900年パリ万博は、電気の祭典とも称されたほど、この世はどんどん明るくなっていくのです。

とはいえ、どんどん明るくなればいいのか、夜も昼のように灯が煌々と照らされていればよいのかといえば、ヨーロッパでは今でもクリスマスの季節が近づくとスーパー、デパート、雑貨店に大量に並ぶろうそくが如何に人々に求められているかを物語っています。灯には実用的な利点以外のものが宿っています。

アンティーク・アイテムの中でも依然人気のあるのがキャンドルスタンドやキャンドルスティック、電気照明で暮らし不要となった今も、オブジェとして映える装飾性ゆえか人気を博していますね。

ところでこんなアイテムをご存知でしょうか?

“mouchette”

これはろうろくの炎を切るハサミ、ムシェットと呼ばれるものです。アンティークでしかみられません。歴史映画を見ていると出てきたりします。

照明の歴史やアイテムについて知りたい方は、ぜひこちらの本をどうぞ!

「魅惑のアンティーク照明 ーヨーロッパあかりの歴史ー」
イネス・ウージェル著
石井 幹子(監修) 中山 久美子(訳)


アカデメイア:19世紀のイギリスとフランス ~モノ、コト、流行~、第2回は「鉄道旅行」

19世紀のイギリスとフランスの「もの」を見ていくテーマ、第2回は鉄道旅行についてのお話でした。

そう、今わたしたちが普通に乗っている電車の前身である乗り物は19世紀に蒸気機関車として誕生したのです。

産業革命がいち早く起こったイギリスで、そしてほどなくフランスでも蒸気機関車が走行し、旅客用の路線が開通します。それまでの移動手段は馬車ですから、当初は車体も馬車っぽい、また19世紀とはいえ階級社会が蔓延っていますので1等車、2等車、3等車と車体も分かれています。馬車の3倍の速度が出せたと言いますから、生活圏という意味では大きな変化だったことでしょう。また人々の心理的な変化も大きく、さまざまな反応が起こったと考えられます。

それを裏付ける絵画を見ながら、19世紀の画家たちにどのような影響を及ぼしたのか、実際どのような絵画がどのような意図で描かれたのか、作品をいろいろと見ていきます。

鉄道の大きなライフスタイルの変化は、なんと言っても新しい行動様式、レジャーとしての旅行が一般化したことでしょう。週末は郊外の水辺に出かけ、ヴァカンスには海辺のリゾート地へ・・・

そういえば明日から全国旅行割がスタートしますね!


新シリーズ・アカデメイア

2022年秋よりアカデメイアの新しいコースがスタートします。1つは9月よりスタートの「19世紀のイギリスとフランス ~モノ、コト、流行~」シリーズ、もう1つは10月よりスタートの「宝飾品 ~肖像画の中に見るジュエリー~」シリーズ、どちらも当協会アンティーク・スペシャリストによる講座です。

夏休み明け最初の活動は9月17日(土)、このアカデメイアの新コースの第1回「ポスターと色彩革命」でスタートしました。

19世紀末はポスターの黄金時代と言われますが、なぜこの時期に黄金時代が出現したのか、今ならポスターオタクと呼ばれそうなポスター愛好家「アフィショマニー」が出現した背景はなんだったのか、そんな社会現象を紐解きます。

また私たちが一般にポスターと呼んでいるこの複製芸術は、どんな技術が用いられているのか、版画の種類や歴史についても学びました。カラーリトグラフとクロモリトグラフの違い、どのようにして見分けるかわかりますか?今回のアカデメイア受講生なら、もう答えはおわかりですね。

美術史的にも有名で、よくその図版を目にするジュール・シェレ、ピエール・ボナール、トゥールーズ・ロートレック、アルフォンス・ミュシャといったポスター大家の作品を見ながら、絵画ではないポスターならではの構図や色使いに関する理由がわかると、なぜこれれほどこの時代に人気を呼び、人々が熱狂して収集し始めたのかがわかる、大変面白いテーマでした。

次回は10月8日(土)、「鉄道旅行」です。お申し込みは随時受け付けています。見逃し配信オンデマンドもありますので、気になる方は是非。


ビアズリーの『サロメ』に表れた「ラインブロック」が実現した美

アカデメイアの60分で紐解く絵画「19世紀末アール・ヌーヴォーの時代の絵画」第5回最終回は、この世紀末からだんだんと増えてくる新しい表現方法の1つ、ラインブロックで描かれたビアズリーの『サロメ』の作品について学びました。

ラインブロックとは、印刷技術の発展に伴って生まれた印刷方法です。写真製版を基に印刷された複製芸術で、この方法により従来では非常にコストのかかった印刷が安価で可能となったのです。「生活に美を」求めたウィリアム・モリスのケルムスコット・プレスに比べると、その十分の一以下のコストで印刷が可能となったということで、アートが一部の富裕層のものだけではない時代の幕開けとも言える時代がやってきます。

ラインブロックの欠点は中間色が出せず、従って白か黒か、という平坦な色調になりがちですが、そのラインブロックの欠点がむしろ幻想的な美として表現されているのが、まさに今回取り上げられたビアズリーの作品。

ビアズリーのこれらの作品は、オスカー・ワイルドの戯曲の挿絵として描かれたものですが、母語である英語ではなくフランス語で先に出版され、そのフランス語が後に英訳されて英国で出版されています。ビアズリーの挿絵はこの英語版のもので、出版はできたもののワイルドが男色家であったことや内容の背徳性により、イギリスで上演できるようになったのは第一次大戦後の1930年になってからでした。ビアズリーもワイルドも19世紀末に亡くなっていますので、母国イギリスではお芝居としてよりも、むしろこのビアズリーの挿絵が評判になって有名になっていったようです。

ワイルドは46歳で亡くなっていますが、ビアズリーに至っては25歳でこの世を去っています。そしてこの挿絵を描いていたのが、わずか20歳を超えたばかりの年齢…幻想的で耽美なこの作風をこんな若さで表現できたビアズリー、もっともっと評価されてもいいアーティストの1人である気がします。

「60分で紐解く絵画」シリーズ、秋からもまた新シリーズをお届けしますので、どうぞ引き続きお楽しみに!


唯美主義をめぐって

今日のアカデメイア「60分で紐解く絵画」19世紀末アール・ヌーヴォーの時代の絵画シリーズ・第4回はアルバート・ジョゼフ・ムーア《夢見る乙女たち》を見ながら、唯美主義についてのレクチャーでした。

みなさん、エステって行っていますか?エステとはエステティックの略、このエステティックとは美学・審美眼の意味であり、まさにこの唯美主義を英語で表現するとaestheticism(エステティシズム)、フランス語ですとesthétisme(エステティスム)なのですね。つまりはこの世の多様な価値の中で美を最高のものとする世界観ないし人生観、美の追求以外には何も必要としないという、美を至上とする芸術運動を指します。

この唯美主義(または耽美主義)運動と言われるルーツとして、19世紀半ばに活躍したフランスのボードレールや、「芸術のための芸術(l’art pour l’art)」と言ったテオフィル・ゴーティエの主張などがあり、やがて19世紀末のイギリスで唯美主義運動として展開されることになったようです。

ムーア自身は、絵画史の中でも超有名級なアーティストではないかもしれません。英国ロイヤル・アカデミーへの会員の入会も認められなかったようです。しかしながら装飾美術家としても活躍していた彼の美しい色彩感覚、そして布地のコレクションをしていたというだけあって繊細な衣装をまとわせた美しい女性の人体像は、古代ギリシアの美術を理解していなければ描けない人体美であり、結果的にムーアの数々の作品は、色彩とデッサンという二刀流の作品の集成とも言えるのです。

2014年に三菱一号館美術館にて「ザ・ビューティフル―英国の唯美主義 1860-1900」展が開催されましたが、そのときのポスターを飾っていたのが、このムーアの作品でした。

「唯、美しく。」

中山先生の奥深いレクチャー後にみなさんで「美の至上主義」について話し合いました。純粋な美とエロティックな視線との境界線はどこまでなのだろうか、これはヴィクトリア時代の性差と道徳の問題にまで切り込む必要があります。美しければそれでいいというスタンスが、やがて花を活けなくても置いているだけで美しい花瓶は室内を美しく飾るという価値観でアール・ヌーヴォーへ繋がったり、次回のビアズリーの世界へと誘うのですね。

6月のアカデメイアは「ラインブロック」が実現した美(オーブリー・ビアズリー『サロメ』より《踊り手への褒美》を取り上げます。お申し込みはこちらより。