アカデメイア「60分で紐解く絵画」、ルドンに描かれる世界は夢か現実か・・・

19世紀末アール・ヌーヴォー時代の絵画シリーズ、第3回はオディロン・ルドンの『長い首の花瓶の花』を取り上げ、ルドンの絵に込められた曖昧さと夢、というテーマで中山先生に解説していただきました。

ルドンは印象派と同時代に活躍した、象徴派に属する画家です。幼少時代に里子に出されるなど淋しい少年時代を送ったせいか、その精神状態が初期のころの画風にも影響を与えたとされているようです。しかしながら人間の内面に向かい精神性を追求しようとした「黒」の作品は次第に注目を浴びるようになります。

やがてルドンの生活も風向きが変わり、幸せで順調な家庭生活を送るようになると、モノクロの世界から色の世界へ、幻想や夢の世界を豊かな色彩と共に表現しようと試みるようになります。油彩だけでなく、パステルや水彩なども用い、象徴主義の中心的な存在となっていきます。

ルドンの絵に描かれる人物、背景、静物は果たしてそこにあったものなのか、それとも夢の中の世界なのか、1枚の絵の中でも、これは目の前にいるであろう人、これは目を閉じたときの夢の中に表れているかもしれないもの、と混在しているかのようです。

例えば『眼を閉じて』に描かれている下三分の一の部分はどこなのか、水の中か、海の中か・・・色々な想像ができますが、ルドンは答え合わせを敢えてしていないようです。『ドムシー男爵夫人の肖像』の人物は肘掛け椅子に座っているようですが、手前のラインは机なのか、背景にはなぜ部屋の様子が描かれていないのか・・・これも現実の人物と夢の中の背景が混じり合った曖昧さが見られます。背景の中にこんなものが見える、あんな人物が浮かび上がっているようだ、と見る人によって想像がかきたてられます。

『長い首の花瓶の花』の花瓶と花、現実の花を曖昧な空間の中に描くことによって、現実と非現実との融合を成し遂げた画家オディロン・ルドンの世界は、神秘が決して難しいものではなく、我々一人ひとりの世界の中に潜んでいるものだということを教えてくれますね。

講座中に「眼を閉じると夢の世界が見えてくる」というお話で、実際に眼を閉じてみた、という方は、「最初は見えていた残存が残っていて、やがて真っ暗になって、その後は不思議な幻想的な世界が浮かび上がってくる、ルドンはこの世界を絵に表したのか」と納得されていました。難解と言われる象徴主義も、実践してみると実は誰にでもその材料は身近にあるものなのかもしれませんね。

次回はムーアの作品を取り上げます。アカデメイア「60分で紐解く絵画」