非公式活動」カテゴリーアーカイブ

北関東への遠足 Vol.2

<館林編>

6月の最終週に、今度は館林在住のアンティーク・スペシャリストSさんのお招きで群馬県立館林美術館にて開催中の「鹿島茂コレクション フランスのモダングラフィック展」へ。

館林へは浅草や北千住から東武線の特急「りょうもう」に乗れば、こちらも1時間弱で着きます。本数もそれなりにあるので、もはや通勤圏内!?ところでこの電車にあるように、館林にはカルピスの工場があるのです。工場見学は大人気でなかなか予約が取れないのだそう。

駅に到着したらSさんが改札でお迎えくださり、駅の近くにあるオススメの花山うどんさんへ。定規のような太さのうどん、鬼ひも川うどんが有名なところです。ラザニアのうどんバージョンのようないでたちで、箸でつまむのにも若干の腕力・腕の力が必要です!

貝柱などの海鮮天ぷら付きの鬼ひも川うどんをいただいてすっかりお腹も一杯になったところで、群馬県立館林美術館へ。建築家・高橋靗一氏のこの建物、水面に浮かび上がる島がイメージされているとのことですが、本当に広大な自然に心が安らぎます。

展覧会はこちらも会期終了に近づいていましたが、幸い混み合っていることもなく、膨大なコレクション数にもかかわらずゆっくりと鑑賞できました。AEAOサロン倶楽部でもかつて日比谷図書文化館にて開催された「鹿島茂コレクション2『稀書探訪』の旅」見学を行ったことがありましたが、紙ものを見るのは集中力を必要としますので、鑑賞における空間スペースは大事です。この展覧会場は天井も高く壁もホワイトで、キャプション量は多くあり全てを理解しながら見進めるのは厳しいものの、アイテムもさまざまなので気分を変えながら鑑賞することができました。

Sさんはすでに4回通われているとのこと、会期中の展示替えもありますし、本当に全てを目に焼き付け、理解するには複数回の見学が必要な展覧会です。鬼ひも川うどんで胃が、そして本展で脳がキャパいっぱいになりました。

別館「彫刻家のアトリエ」は、フランソワ・ポンポンのアトリエが再現されています。この館林美術館ではポンポンの作品を67点も所蔵しているのですが、その理由が館のテーマ「自然の人間との関わり」を探求する上で有意義な作家として注目しているということでした。ポンポンは動物をモチーフとした作品で知られており、その生涯で人物像よりも動物彫刻を多く生み出し、従来、人物像よりも格下とされてきた動物彫刻に光を当てた作家です。

ブルゴーニュ(ポンポンの生誕地)の農家風なこのアトリエも、青空の元でその魅力を映し出してくれます…が、なにせ暑い!この辺りは日本一の高温記録となる場所ですから、涼みましょう、と「エミール、水辺のワッフルカフェ」へ。全面ガラス張りで視界には永遠に続くと思われる緑、カフェ内は快適温度、名物のワッフルの季節限定版をいただきました。

秋には「ロイヤル コペンハーゲンと北欧デザインの煌めき アール・ヌーヴォーからモダンへ」展が開催されますので、またこれに合わせてAEAOサロン倶楽部で訪れてもよいかな、と考えています。

そうそう、館林には正田醤油の本社があります。正田記念館(登録有形文化財)もあり、上皇后美智子様にゆかりのある土地なのですね。日清製粉グループの製粉ミュージアムも駅前にありました。

帰りもSさんに館林駅まで送っていただき、至れり尽くせりな館林の遠足、本当に有難うございました。


北関東への遠足 Vol.1

6月も今日でおしまい、すでに真夏のような気温の日が続いています。

今月は、本協会のメンバーの方々のお招きで、水戸&笠間と館林にそれぞれお邪魔してきましたので、その様子をレポートしたいと思います。

<水戸・笠間篇>

まずは6月3週目に訪れた水戸。東京からは特急「ひたち」や「ときわ」に乗れば1時間10~20分程度で駅に着きます。駅にお迎えにいただき、そのまま車で茨城県近代美術館へ向かい、現在開催中の「アーツ・アンド・クラフツとデザイン」展の鑑賞です。入場券購入時に「何でもよいのでお花や動物の柄のものをお持ちでしたら割引がございますよ」というので、日傘の柄やハンカチの柄までOKという寛容さ、なんと全員割引が適用されました!

ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまでと副題のあるこの展覧会、テキスタイルに壁紙から家具工芸品、そしてジュエリーまでと多分野に渡っての作品の展示で見応えがあります。この規模の展覧会を東京で行っていたら、こんなにゆったりしたスペースでは見られないでしょうし、会期が終わりに近づくと混み合い、繊細なジュエリーや金銀細工をショーケースに顔を近づけてじーっと鑑賞することなどできません。こういうのは本当に地方の美術館の有難いところです。

常設展も含め、建物の空間構成も素晴らしい美術館でした。

その後は車で笠間に向かいます。以前、当協会の遠足で笠間日動美術館と春風萬里荘(旧北大路魯山人邸)を訪れましたが、さすがに時間がなくて訪問できなかった茨城県陶芸美術館で「ティーカップ・メリーゴーラウンド」展が開催中ということで、こちらを訪ねる…前に、お蕎麦屋さんでランチをいただきました。美味しいお蕎麦屋さんでした。

私たちはメリーゴーランド、と呼んでいますが正確にはMerry-Go-Roundなのですね。19世紀半ばから20世紀半ばまでの約100年間に焦点を当て、ティーカップやコーヒーカップが各国の名窯ごとに紹介されています。アフタヌーン・ティ文化の流行している現在、こうしたアンティークのカップをその窯の特徴や歴史と共に俯瞰していく、楽しい展覧会でした。図録はすでに完売、でもどうやらこの後巡回で東京にも来るようですので、その時に買えるかな!?

途中で学校の生徒たちが集団で入ってきてがやがやしている瞬間があったのですが、この展覧会はそもそもが「楽しく会話をしながら」鑑賞することを推奨していたのです、これも東京なら監視員がすっ飛んできて注意されそうな場面ですが、穏やか、のんびり、ゆるふわ。

登り窯も設置されています。

併設されている陶芸ショップでは、現代陶芸家の作品も販売されていました。

そして水戸と言えば、の偕楽園へお連れ頂きました。この日、東京では34℃、この水戸でも32℃という表示でしたのでこんな暑い日にお庭の散歩が果たしてできるかしらと思いきや、森林や竹林の気温の緩和効果を身をもって体験しました。全く暑くないのです!

桜やつつじの季節には人出も多いようですが、そうでない時期は人もまばら、好文亭もゆっくり見学でき、風薫る中でのティータイムは至福の時間。

今回のお招き、訪問地からお店の選定まで完璧な遠足をオーガナイズいただいたW様ご夫妻、本当に有難うございました。


辻清明の茶会

猛暑真っ最中の8月の最初の日曜日、協会の非公式活動ですが有志を募って辻清明の茶会へ参加させていただきました。当協会のアンティーク検定総監修者である岡部昌幸先生が名誉教授をされている帝京大学の茶道部が、年に数回この辻清明の茶室で茶会を開催しており、今回私たちにもお声をかけていただいたのです。何の作法も心得ない入門者の上に「畳に座れない」ミドル&シニア世代なのですが、やはり銘品でお茶がいただけるというので、メンバーの中で車を出していただき日曜日のお出かけとなりました。

場所は多摩の連光寺の近く、高台にあるせいかそれまで汗を拭き拭きだったのが、近づくにつれ涼しい風が出てきて、不思議と汗が引いてしまいました。

この日は何部かに分けての茶会席が進行しているのですが、私たちは到着後、まずは辻清明の御子息の方に登り窯を案内していただきました。辻清明が亡くなられてからは火入れをしていないということで、神々しさが辺り一帯に漂っています。工芸の伝達は家族よりも弟子と言いますが、御子息から生前のご様子や、土を探してくる苦労話、この登り窯の使用についてのエピソードなど色々と興味深いお話を聴くことができました。

西洋の陶磁器のカテゴリーとは若干異なりますが、この焼き締めというのはストーンウェア(炻器)のことですので、通常釉薬は使いません。それではただの土を成型して粘土にして窯に入れれば無地の作品が出来上がるかといえば全くそうではなく、登り窯のどの位置に置くかで煙の方向や火の温度によってどういう景色が表面に表れるのか、そういったことをすべて頭の中で計算して焼くのだそうです。温度管理は勘によって行われるのだそうで、熟練の技なのでしょう。この窯では80時間ほどかけて焼成し、同じ時間をかけて冷却していたようです。

そんなお話を伺った後、茶道部の学生さんから「茶会の準備ができました」と茶室へ案内されます。独立したお茶室で、靴を脱いで、躙口から上がります。頭をぶつけそうになり、とても優雅な姿勢とは言えないまま全員上がったところで、茶会スタート。宝来屋さんのお菓子と芳翠園のお抹茶、そして今回は水指も茶碗も菓子器もすべてクリスタルガラスでした。辻清明のクリスタルガラスも初めて拝見しました。夏の強い日差しが、この茶室でのガラスの影にゆらゆら輝きます。

軸は岡部先生の所蔵品、小早川清の『ひなげし』で、この作品についての解説を茶道部の方に頂いた後、みなさんでちょっとした談義を。日本画家でもフランス印象派を知らない訳はなく、どことなくそんな描写が見られるところなど、美術館では監視員に怒られるような距離で鑑賞できるのも醍醐味ですね。

茶会席の後は、母屋で作陶時のお道具を見せていただいたり、ご家族の方々や他のご参加者の方々と懇親をしたりして、なんだか時代が止まったかのような不思議な時空間に身を置いたひと時でした。