月別アーカイブ: 2025年6月

北関東への遠足 Vol.2

<館林編>

6月の最終週に、今度は館林在住のアンティーク・スペシャリストSさんのお招きで群馬県立館林美術館にて開催中の「鹿島茂コレクション フランスのモダングラフィック展」へ。

館林へは浅草や北千住から東武線の特急「りょうもう」に乗れば、こちらも1時間弱で着きます。本数もそれなりにあるので、もはや通勤圏内!?ところでこの電車にあるように、館林にはカルピスの工場があるのです。工場見学は大人気でなかなか予約が取れないのだそう。

駅に到着したらSさんが改札でお迎えくださり、駅の近くにあるオススメの花山うどんさんへ。定規のような太さのうどん、鬼ひも川うどんが有名なところです。ラザニアのうどんバージョンのようないでたちで、箸でつまむのにも若干の腕力・腕の力が必要です!

貝柱などの海鮮天ぷら付きの鬼ひも川うどんをいただいてすっかりお腹も一杯になったところで、群馬県立館林美術館へ。建築家・高橋靗一氏のこの建物、水面に浮かび上がる島がイメージされているとのことですが、本当に広大な自然に心が安らぎます。

展覧会はこちらも会期終了に近づいていましたが、幸い混み合っていることもなく、膨大なコレクション数にもかかわらずゆっくりと鑑賞できました。AEAOサロン倶楽部でもかつて日比谷図書文化館にて開催された「鹿島茂コレクション2『稀書探訪』の旅」見学を行ったことがありましたが、紙ものを見るのは集中力を必要としますので、鑑賞における空間スペースは大事です。この展覧会場は天井も高く壁もホワイトで、キャプション量は多くあり全てを理解しながら見進めるのは厳しいものの、アイテムもさまざまなので気分を変えながら鑑賞することができました。

Sさんはすでに4回通われているとのこと、会期中の展示替えもありますし、本当に全てを目に焼き付け、理解するには複数回の見学が必要な展覧会です。鬼ひも川うどんで胃が、そして本展で脳がキャパいっぱいになりました。

別館「彫刻家のアトリエ」は、フランソワ・ポンポンのアトリエが再現されています。この館林美術館ではポンポンの作品を67点も所蔵しているのですが、その理由が館のテーマ「自然の人間との関わり」を探求する上で有意義な作家として注目しているということでした。ポンポンは動物をモチーフとした作品で知られており、その生涯で人物像よりも動物彫刻を多く生み出し、従来、人物像よりも格下とされてきた動物彫刻に光を当てた作家です。

ブルゴーニュ(ポンポンの生誕地)の農家風なこのアトリエも、青空の元でその魅力を映し出してくれます…が、なにせ暑い!この辺りは日本一の高温記録となる場所ですから、涼みましょう、と「エミール、水辺のワッフルカフェ」へ。全面ガラス張りで視界には永遠に続くと思われる緑、カフェ内は快適温度、名物のワッフルの季節限定版をいただきました。

秋には「ロイヤル コペンハーゲンと北欧デザインの煌めき アール・ヌーヴォーからモダンへ」展が開催されますので、またこれに合わせてAEAOサロン倶楽部で訪れてもよいかな、と考えています。

そうそう、館林には正田醤油の本社があります。正田記念館(登録有形文化財)もあり、上皇后美智子様にゆかりのある土地なのですね。日清製粉グループの製粉ミュージアムも駅前にありました。

帰りもSさんに館林駅まで送っていただき、至れり尽くせりな館林の遠足、本当に有難うございました。


北関東への遠足 Vol.1

6月も今日でおしまい、すでに真夏のような気温の日が続いています。

今月は、本協会のメンバーの方々のお招きで、水戸&笠間と館林にそれぞれお邪魔してきましたので、その様子をレポートしたいと思います。

<水戸・笠間篇>

まずは6月3週目に訪れた水戸。東京からは特急「ひたち」や「ときわ」に乗れば1時間10~20分程度で駅に着きます。駅にお迎えにいただき、そのまま車で茨城県近代美術館へ向かい、現在開催中の「アーツ・アンド・クラフツとデザイン」展の鑑賞です。入場券購入時に「何でもよいのでお花や動物の柄のものをお持ちでしたら割引がございますよ」というので、日傘の柄やハンカチの柄までOKという寛容さ、なんと全員割引が適用されました!

ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまでと副題のあるこの展覧会、テキスタイルに壁紙から家具工芸品、そしてジュエリーまでと多分野に渡っての作品の展示で見応えがあります。この規模の展覧会を東京で行っていたら、こんなにゆったりしたスペースでは見られないでしょうし、会期が終わりに近づくと混み合い、繊細なジュエリーや金銀細工をショーケースに顔を近づけてじーっと鑑賞することなどできません。こういうのは本当に地方の美術館の有難いところです。

常設展も含め、建物の空間構成も素晴らしい美術館でした。

その後は車で笠間に向かいます。以前、当協会の遠足で笠間日動美術館と春風萬里荘(旧北大路魯山人邸)を訪れましたが、さすがに時間がなくて訪問できなかった茨城県陶芸美術館で「ティーカップ・メリーゴーラウンド」展が開催中ということで、こちらを訪ねる…前に、お蕎麦屋さんでランチをいただきました。美味しいお蕎麦屋さんでした。

私たちはメリーゴーランド、と呼んでいますが正確にはMerry-Go-Roundなのですね。19世紀半ばから20世紀半ばまでの約100年間に焦点を当て、ティーカップやコーヒーカップが各国の名窯ごとに紹介されています。アフタヌーン・ティ文化の流行している現在、こうしたアンティークのカップをその窯の特徴や歴史と共に俯瞰していく、楽しい展覧会でした。図録はすでに完売、でもどうやらこの後巡回で東京にも来るようですので、その時に買えるかな!?

途中で学校の生徒たちが集団で入ってきてがやがやしている瞬間があったのですが、この展覧会はそもそもが「楽しく会話をしながら」鑑賞することを推奨していたのです、これも東京なら監視員がすっ飛んできて注意されそうな場面ですが、穏やか、のんびり、ゆるふわ。

登り窯も設置されています。

併設されている陶芸ショップでは、現代陶芸家の作品も販売されていました。

そして水戸と言えば、の偕楽園へお連れ頂きました。この日、東京では34℃、この水戸でも32℃という表示でしたのでこんな暑い日にお庭の散歩が果たしてできるかしらと思いきや、森林や竹林の気温の緩和効果を身をもって体験しました。全く暑くないのです!

桜やつつじの季節には人出も多いようですが、そうでない時期は人もまばら、好文亭もゆっくり見学でき、風薫る中でのティータイムは至福の時間。

今回のお招き、訪問地からお店の選定まで完璧な遠足をオーガナイズいただいたW様ご夫妻、本当に有難うございました。


「西洋帰りのIMARI展」で里帰り品と出会う

AEAOサロン倶楽部・6月の会は、戸栗美術館で開催中の「西洋帰りのIMARI展」の見学会でした。17世紀から日本の磁器は海を渡りヨーロッパへ、そしてそれらが里帰りを始めた20世紀後半、と2度海を渡った伊万里焼、中には更なるトランジット(!)でアメリカに滞在して日本へ里帰りした品もありました。そんな里帰りを果たした伊万里焼が渋谷区松濤・戸栗美術館に所蔵・展示されています。

戸栗美術館のある松濤は渋谷駅から若干離れています。鑑賞会に先立って行われる懇親会ランチはちょうど駅と美術館の中間地点にある、渋谷の街を見下ろせる高層ビルにあるオシャレなカフェレストランLegatoへ。11時半オープンのお店ですが、15分ほど前から予約されたお客さんが次々とエレベータで15階へ到着、全面ガラス張りのビル内にある天井高のゴージャスな空間です。

乾杯のスパークリング・ドリンクにコース料理はたっぷりのサラダ、黒トリュフのクリームニョッキ、メインはチョイスでグリルチキン、ビーフ・サガリステーキ、メカジキのグリルなど。デザートのショコラ・テリーヌは羊羹並みの濃厚なテイストで満腹です。ブラックのほろ苦いコーヒーとよく合います。

食後にざっとミニ・レクチャーを終えた後、ランブリングストリート経由で松濤へ。ライブ会場やホテル、映画館などが立ち並び昼間でも若者たちが(何かのイベントに)並んでいる活気に満ちた道を歩き、松濤に足を踏み入れると今通ってきた喧騒が嘘のような静かで品の良い街に。渋谷は本当に色々な顔を持つ街だとあらためて感じます。

今日は学芸員さんによる展示解説目当てで、多くの方が待機。14時より作品を見ながらの展覧会の解説を懇親丁寧にいただきました。熱心な研究の成果で、里帰り品も今では色々なことが判明してきたようです。これは伊万里(有田)焼きの壺だけれど、恐らく蓋はマイセンかどこかのヨーロッパ窯で模して造られたものを後から付けられたのだろうとか、この瓶はヨーロッパで金属の台座が付けられ、上部には燭台が付けられていた可能性がある、など工芸ミステリーの世界へと誘われます。

アウグスト強王の東洋陶磁のコレクションは、所蔵目録によると24000点ほどあったと言いますが、当時は宝石並みの希少さと高価さの東洋磁器をこれだけ蒐集していたこの執念が、ヨーロッパ初の硬質磁器の焼成を成功させ、マイセン窯を設立させたのでしょう。

展示解説終了後は前館長夫人が顔を出して下さり、近況などを語り合い、「松濤の花園」なるマル秘情報を教えてくださいました。この高級住宅地・松濤にスペイン風のお屋敷があるのですが、そこで土日だけお花やお野菜、果物、ガチョウの卵などを販売していてお庭も見せて下さるのだとか。折角なので教えていただいた場所に行ってみると、心優しいマダムが「どうぞどうぞ、中へ入って」と花園ガーデンに入れて下さいました。松濤でこんな自然にあふれた場所があるとは!おそるべし松濤、ミステリアス度が益々高まってきました!

さて、7月は3年連続で催している「大人の銀座のアート遠足」第3弾です。暑さに負けずに街歩きを愉しみましょう。


オークション下見会へ!

今日は、今季のアカデメイア「アンティーク鑑定士のエキスパートになる!」の実地講座で、オークションの下見見学会を行いました。4~5月はサザビーズやクリスティーズのオークションの出品物についてのdescriptionを紐解いていくオンライン講座でしたが、6月は実際のオークション出品物を目の前で手に取って見ていきます。平日の昼間にもかかわらず、今回は富山、長野、茨城からも参加者が集結、まずはお昼前のカフェにてサンドイッチなどをつまみながらのミニレクチャーです。

オークションの成り立ち、歴史、世界の三大オークション、日本における伝統的なオークション、日本の公開オークションシステム、ちょっと特殊なオークション用語などについて一通り学び、そして今回のオークション出品物について、記載の用語の意味なども理解して、いよいよオークション下見会会場へ向かいます。

今回は日本における売上ベースで最大シェアを保つ毎日オークションの西洋装飾美術の下見会にお邪魔させていただきます。年に数回開催される同社の西洋装飾美術オークション、毎回数百点もの出品物が並び、その規模も最大ながら分野も多岐に及んでいます。大物は家具、シャンデリア、ランプ、ステンドグラス、オルゴール、絨毯、もちろん陶磁器、銀器、ガラス類も普段ではなかなかお目にかかれないものが展示、下見会の目的は作品のコンディション・チェックですので特別に記載がある品以外は基本触ってみることができます。またオークション会社のスタッフさんも会場内にいらっしゃるので、詳しく知りたい出品物については更なる情報を得ることもできます。差支えのない範囲で色々教えてくださいます。

成り行き以外の出品物には予想落札価格が出ていますので、これもある指標になります。同じようなものなのに、なぜこれは安めの評価なんだろう、と思ってよくよく見るとキズがあったり、人気のないモチーフだったり、数が出回っているものだったり…マーケットですから必ず値段には理由がある、そう思ってみていくのも興味深いです。

このミュージックチェア、マーケトリー部分に音楽のモチーフはないし、楽器を演奏する椅子にしてはどうかなあ、と思って尋ねたところ、これは座面の中がオルゴールになっていて、人が座るとその重みで音楽が鳴る仕掛けのものだそうです。初めて見せていただきました。

他にも日本ではあまりお目にかかることのないアール・ヌーヴォー期の作家のパート・ド・ヴェールの作品、北欧アーティストの家具など、勉強も兼ねてたっぷり鑑賞させていただきました。

今回オークションにトライしてみようかな、という方は早速受付で手続きをされ、またネットでも出来ますので翌日のLIVE BIDで挑戦しようという方など、みなさんさまざまな思いが交錯した、楽しいひとときでした。

7月より新アカデメイアがスタートします。

「紅茶とアフタヌーン・ティーにまつわる英国の歴史とアンティーク」、6月15日よりお申込み開始です。こちらもよろしくお願いいたします。