月別アーカイブ: 2024年8月

8月のサロン「朝活!さようなら学士会館、こんにちは如水会館」

8月のAEAOサロン倶楽部は、今年12月をもって再開発事業計画により営業終了となる学士会館の建物見学に参加させていただきました。この建物見学ツアー、前々月に抽選による完全予約制の申し込みが開始されるのですが、予約開始時間と同時に申し込んでも秒で受付が終了してしまいます。今回は奇跡的に当協会で6名の枠が取れ、学士会館をはじめ神保町界隈を知り尽くす会にしてみました。

朝10時にフロント集合ということで我々は10分前に招集をかけたのですが、総勢10名のツアーのはずなのにどうも人が多い…どうやらあまりに多くの申し込みがあり、今日は特別に4本のツアーが作られたということでした。

私たち6名と、他の方々で1グループとなり、学士会館のベテランスタッフの方に案内いただきます。

すでに営業終了となってしまった、フランス料理レストラン「ラタン」の内部。チューダーゴシック装飾です。何度か当協会でも奥の個室を借りてサロンを開催しましたが、クラシカルな内装にゆったりした配置、お料理も尖ったものはなく安定した伝統的フレンチ、是非また復活してほしいです。

ここにポール・シニャックの絵があったのですが、今は取り外されて保管されているとのこと。

かつて正面だった旧館側の階段広間は人造石張りの十二角形の柱に、KAWAIのオルガン。

201号室のロビーとエレベーターホールを分けるアーチの装飾も素敵。

建設当初の姿をほぼ残しているという201号室、ドラマ「半沢直樹」に使われた土下座部屋で有名になりましたね。

色々な部屋を見せていただきましたが、神殿もありました!そして今日はお天気も良いということで、なんと屋上にも上がらせていただきました。

96年前のこの魅力ある建物、その後どうなってしまうのか尋ねたところ、白山通りの拡張計画(都市計画)に伴いまず新館を解体、そして旧館を曳家保存するとのこと、7メートルくらいセットバックするのだそうです。少しずつ慎重に曳家工法で動かす、その過程を時々神保町に出かけた際に見ていくことにしましょう。

記念碑も再開発でどうなってしまうのか、今の段階では不明なようでした。

旧帝大とされる7大学のOBクラブの学士会館の斜め横に、今度は一橋大学の「如水会」の建物、如水会館があります。如水という言葉は渋沢栄一が命名したそうです。こちらの建物の竣工は学士会館より早い1919年でしたが、関東大震災で被災し、大正末に全館修復、その建物も1979年に解体し新会館が竣工したのは1982年、比較的新しい建物なのですが、外観もロビーもクラシカルな雰囲気で、アンティーク好きの我々には落ち着きます。

ランチは1Fにあるカフェ&パブ マーキュリーでコースランチを。現在運営は東京會舘が受託しているのですが、デザートはオプションで東京會舘の名物「マロン・シャンテリー」にしてもらいました。初代製菓長がモンブランを日本人向けにアレンジして発案したと言われるこのスイーツ、全員ペロッと完食。そしてお店の方から私たち全員にマドレーヌをお土産に頂いてしまいました。

食後、強い日差しの中、日陰を求めながら少しだけすずらん通り界隈をみなさんで散策。

明治20年創業の「文房堂」の外観、そして小学館運営の映画館「神保町シアター」、2Fに「神保町よしもと漫才劇場」が入っています。有名な喫茶店「さぼうる」も。

新旧の建物が入り混じる神保町、古き佳きものを上手に残していってほしいものですね。


読書会:『マンガでわかる「西洋絵画」の見かた 聖書編』第2期終了!

いよいよ第2期最後の回、クライマックスともいうべきイエスの死がやってきました。今日のテーマは十字架の道行き、磔刑(十字架昇架、イエスの死)、十字架降下、そしてキリストの復活、と多くの名画で描かれているおなじみの場面がたくさん出てきます。

キリストが十字架に磔られている絵は多くの画家が描いていますので実物の絵画を見たことがある人は多いでしょうが、この磔刑図にも痛く苦しそうな表情と、穏やかに寝ているような表情があり、美術史を知っているとその画風の違いも理解できそうです。

キリスト像の上には「INRI 」という言葉がよく描かれていますが、これは「Iesus Nazarenus Rex Indaeorum」の略記で「ナザレの王イエス、ユダヤ人の王」の意味。そういえばロザリオにもよく「INRI」の文字が刻まれていますね。

十字架降下図も多くの画家が描いていますが、やはりバロックの画家たちの絵画が強烈な印象を与えるのは、そもそもバロック絵画が対抗宗教改革としてカトリックの営業発信ツールだったことにも関係しているのでしょうか。このルーベンスの作品は初期の代表作です。

そしてキリスト復活、エマオの晩餐、キリスト昇天、聖霊降誕とストーリーは続きます。

第2期の読書会はここまでですが、引き続き第3期では有名な聖人やキリスト教美術の定型的な主題を見ていきます。サンタクロースのモデルになったのはだれ?三島由紀夫がお気に入りだった聖人は…など、さまざまな話題を交えながら、西洋美術をより深く楽しめるようになる知識が身につく講座です。

12月には、丹下健三の名建築としても有名な、東京カテドラル聖マリア大聖堂を見学する予定です。

第3期のお申込み、お待ちしております。


辻清明の茶会

猛暑真っ最中の8月の最初の日曜日、協会の非公式活動ですが有志を募って辻清明の茶会へ参加させていただきました。当協会のアンティーク検定総監修者である岡部昌幸先生が名誉教授をされている帝京大学の茶道部が、年に数回この辻清明の茶室で茶会を開催しており、今回私たちにもお声をかけていただいたのです。何の作法も心得ない入門者の上に「畳に座れない」ミドル&シニア世代なのですが、やはり銘品でお茶がいただけるというので、メンバーの中で車を出していただき日曜日のお出かけとなりました。

場所は多摩の連光寺の近く、高台にあるせいかそれまで汗を拭き拭きだったのが、近づくにつれ涼しい風が出てきて、不思議と汗が引いてしまいました。

この日は何部かに分けての茶会席が進行しているのですが、私たちは到着後、まずは辻清明の御子息の方に登り窯を案内していただきました。辻清明が亡くなられてからは火入れをしていないということで、神々しさが辺り一帯に漂っています。工芸の伝達は家族よりも弟子と言いますが、御子息から生前のご様子や、土を探してくる苦労話、この登り窯の使用についてのエピソードなど色々と興味深いお話を聴くことができました。

西洋の陶磁器のカテゴリーとは若干異なりますが、この焼き締めというのはストーンウェア(炻器)のことですので、通常釉薬は使いません。それではただの土を成型して粘土にして窯に入れれば無地の作品が出来上がるかといえば全くそうではなく、登り窯のどの位置に置くかで煙の方向や火の温度によってどういう景色が表面に表れるのか、そういったことをすべて頭の中で計算して焼くのだそうです。温度管理は勘によって行われるのだそうで、熟練の技なのでしょう。この窯では80時間ほどかけて焼成し、同じ時間をかけて冷却していたようです。

そんなお話を伺った後、茶道部の学生さんから「茶会の準備ができました」と茶室へ案内されます。独立したお茶室で、靴を脱いで、躙口から上がります。頭をぶつけそうになり、とても優雅な姿勢とは言えないまま全員上がったところで、茶会スタート。宝来屋さんのお菓子と芳翠園のお抹茶、そして今回は水指も茶碗も菓子器もすべてクリスタルガラスでした。辻清明のクリスタルガラスも初めて拝見しました。夏の強い日差しが、この茶室でのガラスの影にゆらゆら輝きます。

軸は岡部先生の所蔵品、小早川清の『ひなげし』で、この作品についての解説を茶道部の方に頂いた後、みなさんでちょっとした談義を。日本画家でもフランス印象派を知らない訳はなく、どことなくそんな描写が見られるところなど、美術館では監視員に怒られるような距離で鑑賞できるのも醍醐味ですね。

茶会席の後は、母屋で作陶時のお道具を見せていただいたり、ご家族の方々や他のご参加者の方々と懇親をしたりして、なんだか時代が止まったかのような不思議な時空間に身を置いたひと時でした。