投稿者「antique-kentei」のアーカイブ

ミュシャとムハで無茶しました!?

 AEAOサロン倶楽部、5月の会は今年度上半期最大のイベントでした。毎月、何かしらテーマを決めて行っているこのサロン、ちょうど国立新美術館で開催中のミュシャ展に合わせて、話題になっているスラヴ叙事詩とアール・ヌーヴォーの作品の対比を、レクチャーと音楽で紐解いていきましょう、という企画でした。

 
 会場は、この企画にうってつけの、一誠堂美術館&カフェ・エミール。自由が丘にあるこの美術館は、アール・ヌーヴォーのガラスの工芸館として、ゆとりと豊かさを感じさせてくれる極上のサロンです。また、カフェ&エミールは、ミュシャのポスターで壁面が装飾されている、シックなサロン・ド・テ。この会場を、AEAOサロン倶楽部のために貸切で提供してくださった、川邊会長の温かいおもてなしに感謝です。
 
 
 

 前半は、群馬県立近代美術館館長・岡部昌幸先生による、ミュシャのレクチャー。いっときは忘れられた作家であり、またチェコ時代は時代に取り残された、不遇な作家として生きた、その一生をパノラマ的に解説してくださいました。

 

 ティータイムをはさんでの後半は、東京フィルハーモニー交響楽団のヴィオラ奏者である手塚貴子さんの、無伴奏ヴィオラ・リサイタル。ミュシャがサラ・ベルナールのポスターの専属デザイナーとなったパリ時代の、『トスカ』や『ラ・トラヴィアータ』をヴィオラ用に編曲(編曲は奏者自身)したものを演奏、やがてチェコで生きるムハの姿を『モルダウ』で表現します。
 

 ハイライトはヒンデミットの無伴奏ヴィオラのためのソナタ作品25-1の熱演。ヒンデミットは、ミュシャと同時代の作曲家であり、またクラシック音楽ではじめて実用音楽を唱えた作曲家です。実用音楽とは、特定の目的のために存在する音楽、今で言えば当たり前の商業音楽、ということになるのでしょうか。芸術のための芸術ではなく、一般大衆のための音楽活動で、たとえばダンスや映画のための音楽を言います。ミュシャの芸術活動も、オペラや演劇のためのポスターを制作し、またスラヴ民族復興運動のために活動していたわけで、非常に共通点のあるテーマとも言えるでしょう。
 

 会場のスペースが、定員30名のところ、非常に多くのお客様が参加希望で、無理やり35名を詰め込んでしまい、お客様には窮屈な思いをさせてしまったのが、申し訳なく思います。ちょっとそれでもみなさんお愉しみいただけたとしたら、嬉しい限りです。
 
 

18世紀軟質磁器のセーヴル、その品格と希少性

 昨日5/2にTV東京で放映された「なんでも鑑定団」に、なんと18世紀のセーヴル磁器のカップ&ソーサー20点セットが出品されていました。
 

 この番組で西洋アンティークが出品される割合は、和骨董や中国骨董に比べると低いのですが、それでもときどき、「こんなものを蒐集していた日本人コレクターがいたんだ!」とびっくりする事があります。今回のコレクターもまさしくその1人。
 

 セーヴルは、現在でも国立窯として、エリゼ宮の食卓にも登場する高級磁器窯ですが、現在の、カオリンを用いる硬質磁器を製作する前は、軟質磁器を製作していました。フランスでカオリンが発見されたのは、マイセンより遅れること半世紀以上、それまではカオリンが発見されず、それでも磁器の製作に邁進するフランスでは、ルイ15世の愛妾・ポンパドール夫人によって、ヴァンセンヌ磁器工場をセーヴルへ移転し、王立磁器窯として、磁器の製作を推進していました。
 

 やがてリモージュ郊外でカオリンが発見され、ようやく硬質磁器の製法が解明されてからは、軟質磁器から硬質磁器へと移行、やがて軟質磁器製法はその役目を終えてしまいます。
 

 今回出品されていたのは、18世紀の、軟質磁器で作られたカップ&ソーサーで、18世紀セーヴルはといえば、これは本国フランスでもミュージアム・ピース。パリではルーヴル美術館のお隣にある、装飾美術館にて見ることができます。
 
 
 

 今回のカップ&ソーサー20点は、出品者が1000万円を費やしてのコレクションだということで、評価額1000万円をつけていましたが、さて結果は・・・700万円でした。というのも、中に4点、18世紀セーヴルではない、いわゆる「セーヴル・スタイル」が入っていたからなのです。
 

 スタイル、という言葉は、様式を意味します。つまりセーヴルの様式に沿って作られたもの。19世紀になって、18世紀のさまざまな様式がリバイバルしますから、19世紀につくられたセーヴル・スタイルは存在します。
 

 セーヴルは、ヴァンセンヌ時代から一貫して同じサインが入っており、アルファベットで年代が特定できます。もちろん18世紀セーヴルはその価値も高いので、偽物が存在しているのも事実ですが・・・。
 

 今回の出品作品、ルイ15世の最後の愛人であった、デュ・バリー夫人が愛用していたカップ&ソーサーや、ポンパドール夫人が病気で寝込んでいるときに使用するための、くぼみのあるソーサー付カップなど、鑑定士も「まさかこれが日本で見られるとは、思わなかった」と驚いていらっしゃいましたが、こういうコレクターが日本に存在している、というのは、西洋アンティークを愛する者としては、なんだか嬉しいですね。
 

 TV番組のコメントではないですが、「ぜひ、大切になさってください」!
 

「ファッションとアート 麗しき東西交流」展

 横浜美術館にて4/15よりスタートしたこの展覧会は、西洋アンティークを学ぶわたしたちにとって、見どころ満載の作品が多く展示されています。
 


 
 この展覧会では、服飾品、工芸品、絵画、写真を通して、19世紀後半から20世紀前半の、西洋と日本のファッションと美術の変遷を辿ることができるようになっています。
 

 今ではよく「里帰り品」と呼んで珍重されている、日本が明治期に輸出したティーセットなどの洋食器、そしてアクセサリーとしての薩摩焼のボタンやブローチ、絹製品であるハンカチやシャツ、そんな展示品を通して、装飾美術のルーツとなる当時の日本や西洋の社会風俗を学ぶことができます。
  
 「シャトレーヌ」というアイテムをご存知でしょうか。フランス語で城の女主人を表す言葉ですが、19世紀にリバイバルしたジュエリーです。チェーン製の腰飾りの形態をしており、時計や針道具、文具などが吊るされていて、まだ女性がバッグを持たない時代において、バッグの役割を果たすものでした。そんな「シャトレーヌ」も展示されています。
 
 シャトレーヌ(展示品とは異なります)
 


 
 ルネ・ラリックのポーチやハンドバッグは、本当にうっとりする見事な金細工で、見とれてしまいます。(箱根ラリック美術館所蔵品)
 
 ロイヤル・ウースター社は、伊万里のモチーフでのティーカップを作っていましたが、実に見事なティーセットが展示されています。(三菱一号館美術館所蔵品)
 

  
 アール・デコを代表するジャン・デュナンの漆のコンパクトはどれも繊細でデザイン製に富んでおり、これも素晴らしいアイテム。(京都服飾文化研究財団所蔵品)
 

 日本が開国して以来、国際港湾都市となった横浜にあるこの美術館でこういった展覧会を開催するのは、本当に意義深いものですね。展覧会は6/25までです。
 
 横浜美術館 『ファッションとアート 麗しき東西交流』展
 
 

ナビ派にみる、装飾美術

 三菱一号館美術館にて、「オルセーのナビ派展」が開催されています。
 

 この展覧会は、オルセー美術館の総裁であり、ナビ派研究の第一人者でもあるギ・コジュヴァル氏が渾身の力を発揮された展覧会とされており、オルセー美術館からナビ派の主要作品のほとんどが、現在東京に集結しています。
 

 ナビ派というと、印象派などと比べて影が薄い存在かもしれません。またマーケット市場でも、先月ロンドン・サザビーズで開催された近代絵画オークションでは、ナビ派の作品が2点出品されていましたが、1点は落札されず、もう1点も、評価額の下値での落札。何億円と話題になる印象派絵画と比べると、ずいぶんとお買い得感のあるお値段です。
 

 ところが、アンティーク好きにとって、ナビ派は実はとても身近な存在です。ナビ派の作家たちは、絵を描く画家としてだけではなく、装飾美術の世界でも活躍していたからです。
 

 舞台芸術、ステンドグラス、挿絵、ポスターなどのグラフィック・アートから、陶磁器の絵付けまで、実に幅広く装飾美術工芸の世界でも、作品を残しています。
 

シャンゼリゼ劇場の天井画は、モーリス・ドニ。
 

 

(マケットはオルセー美術館にあります。)
 

このピアノの楽譜、かわいいですよね、この表紙はボナールです。
 

 

このお皿の絵付けは、ヴュイヤール。
 

 
 絵画とは装飾である、と言い切ったモーリス・ドニ。絵画=純粋美術、装飾工芸品=応用美術、の垣根を取り払ったナビ派たちの展覧会、ぜひお見逃しなく!
 
 三菱一号館美術館「オルセーのナビ派展」
 
 

写真の世界を解き明かす!ロバート・メイプルソープ写真展@シャネル・ネクサス・ホール

 AEAOサロン倶楽部4月の会は、写真をテーマに取り上げてみました。
 

 古いセピア色の写真、ちょっと形がいびつになったアンティークの写真が、蚤の市でもよく売られています。モノクロだけれど、一色だけ赤やピンクのカラーが入っているものも、ときどき見かけます。そもそも写真は、いつから、どのようにして発展してきたのか、市場価値はどういうところがポイントなのか、写真の「オリジナル」って果たしてあるのか・・・そんな写真に関する疑問を解き明かそう、ということで、写真の修復家でもある白岩修復工房の白岩洋子氏をお迎えしてのレクチャーを、銀座のカフェにて行いました。
 

 まずは写真の誕生の歴史から。ダゲール、タルボット、ウェッジウッド、ニエプスといった、19世紀の写真史に欠かせない人物名が登場します。
 

 写真の構造を理解し、「写真」、「写真製版」、「印刷」、それぞれの見分け方を学びます。シルバーゼラチンプリントとプラチナプリントの違いは、現物を見て触って、ルーペで細かいところを見ながらのお勉強。今回レクチャーの後で見学するメイプルソープ展では、この2つのプリントが展示されていますので、まずはしっかり違いを学びました。
 

 現代ではデジタル画像が主流ですので、もう紙の写真は要らない、という人もいるでしょうが、要注意!デジタル画像の寿命は決して永遠ではなく、CDやDVDでの保存は有限です。それに対してアナログ写真、いわゆる紙の写真は、紙が燃えない限り、残ります。(アナログ写真には、紙だけでなく、ガラス、金属、プラスチックもあります。)
 

 写真の構造を理解した後は、カフェからシャネル・ネクサス・ホールへ移動し、いよいよロバート・メイプルソープ展の見学です。
 
 
 

 光と影のコントラストを巧妙に表現した数々の作品、その主題もさまざまですが、特に最晩年の作品のテーマである花には、作家自らが死を予感していたと思われる要素を読み取ることができます。
 

 フォーマットとしては珍しい正方形の写真、それでも安定感と居心地の良さを感じるのは、メイプルソープならではの洗練された構図によるものだからでしょうか。
 

 白岩先生のプレレクチャーのおかげで、十二分に堪能できた展覧会見学でした。
 
 ロバート・メイプルソープ財団のHP