投稿者「antique-kentei」のアーカイブ

最後に行けてよかった、原美術館!

11月のAEAOサロン倶楽部は「さようなら原美術館」と称し、惜しくも2020年1月に閉館となる原美術館を訪れました。

最近ではごくごく少人数、数名で食事を楽しんで何らかの見学をする課外型と、もう少し多くの人で一緒に行うお勉強会と、主に2つのタイプのサロンを開催しております。主に気候の良い季節は外に出て歩き、寒さ暑さの厳しい季節は快適な室内でのお勉強がふさわしいかなと思っておりますが、今回で言えば前者を前提としていたところ、なんと受付開始初日で定員が埋まってしまいました。その後も、キャンセル待ちのリクエストがかなりあり、やはり「もう行けない、最後だ」と思うとこの機会に訪れてみたい方も多かったのでしょう。レストラン側にお願いして席数を増やしていただき、キャンセル待ちの方も全員参加することができました。

まずはみなさんで集まって、美食から。よく「隠れ家的レストラン」と言われていても実際は全然隠れ家なんかじゃないことがありますが、今回のお店は本格的な「隠れ家」でした。そのため「ちょっと迷いました〜」という方も。もちろん最近ではGoogleMap様のおかげで、方向音痴組もずいぶん助けられていますね。

外観、内観ともちょっと日本とは思えない素敵なレストランでスパークリングワイン付きのフレンチ・フルコースを頂きます。器、お料理、どれも凝っていて、とても美味しくいただきました。

腹ごしらえをした後の腹ごなしは、御殿山のお散歩。ちょうどこの時間は即位パレードの時間と重なっていて、みなさんTVに釘付けか、あるいはパレードの沿道にでかけていらっしゃったのでしょうか、車も人もあまり通らず、とても和やかに楽しくお散歩を愉しみました。

この界隈は旧毛利邸、旧岩崎邸(現開東閣)、旧益田邸など名だたる名家の屋敷跡地です。これから訪れる原美術館も、昭和13年に建設された原邸、アール・デコからバウハウスの流れを引く、昭和モダニズムの代表的な建築です。

原美術館では、当協会監修者の岡部昌幸先生をお迎えし、先生の大学の学生さんもジョイントしてのガイディングが行われました。ヨーロッパの邸宅美術館などはそのほとんどがかつての貴族の館であり、現在は国なり市なりの所有となっているためそのまま住んでいるケースは少ないのですが、今回庭でのガイディング中に敷地内にお住まいの原夫人にご挨拶されるなど、本当に現役の邸宅美術館としてのライブ感がありました!

最後となる展覧会は「加藤泉−LIKE A ROLLING SNOWBALL」展。

現在美術は今やサイズで勝負という趣向にだんだん移っていく中、原美術館では手狭であったり搬入口が限られていたりバリアフリーに対応できなかったり、色々課題があるということで、改修してこの歴史的建造物の姿・デザインを変えてしまうよりは、と美術館としては閉館されるようですが、この白亜の昭和モダニズムの建物だけはぜひ残ってほしいと思います。

なお、伊香保温泉の近くにある群馬のハラ・ミュージアム アークにて、引き続き現代美術の作品は見られます。

世田谷美術館「チェコ・デザイン100年の旅」展

10月のAEAO サロンは「チェコの可愛いデザインを求めて 〜ミュシャ、チェコ・キュビスムからチェコ・アニメまで〜」と題して、世田谷美術館で開催されているチェコ・デザインの鑑賞会を行いました。装飾工芸の世界ではミュシャは言うまでもないですが、逆にミュシャしか知らない・・・という人も多いのではないでしょうか。そんな知られざるチェコのデザインを総括した展覧会です。

見学に先立ってのプレ・レクチャー会場は、館内の公園に面したフレンチレストラン『Le Jardin』。窓の外からは緑が生い茂り、とても東京23区内とは思えない風景、日曜日とあってウェディングと思わしき団体がお庭で集っていました。

ちょうど先月国立プラハ工芸美術館を訪問された中山久美子先生(当協会アンティーク・スペシャリスト)が建築も含めた現地の様子をレポートしてくださり、またチェコという国についても歴史や政治をおさらいした上で展覧会の章立てや、チェコ・キュビスムについて詳しく解説してくださったおかげで、会場に足を踏み入れても戸惑うことなく、進んでいけます。

展覧会場は、都心の混み混みした会場とは異なって非常にゆったりとした空間構成、また場所柄や内容の性質からしても、昨今よくあるメディアにそそのかされてとりあえず話題になっているから来ましたよ、という鑑賞者はほぼ皆無、みなさんニッチに好きな人が集まっているという感じが読み取れ、非常に居心地のよい空間でした。

アール・ヌーヴォーから現代までのチェコ・デザインがだいたい10年ごとにブースで仕切られて展示されており、そこには家具ありテーブルウェアあり調度品ありポスターあり、あらためて装飾工芸という分野は、産業、デザイン、機能、この3つの軸で成り立っているのだと感じさせてくれます。

10月は台風や大雨に何度もやられ散々なお天気の月でしたが、この日は太陽も出て暑くもなく寒くもない本当に気持ちの良い日とあって、砧公園は多くの家族づれのピクニックや子供たちのスポーツで賑わっていました。普通は展覧会見学といえば結構歩くので、足も疲れがちですが、緑の中を歩くのは別腹ならぬ別筋肉でしょうか!?ぶらぶらと公園を横切りながら帰途につきました。

最終日はシャンティイにて

いよいよ研修最終日。今日はシャンティイへの日帰り旅行です。
折しも10月18〜20日の間はシャンティイ内で「植木市」が開催とあって、朝からものすごい人で賑わっていました。
ミニコンサートなども随時行われています。

シャンティイには何があるのか?お城があります。そのお城はいつ誰によって建てられたのか・・・よく見ると建築様式が異なる部分で成り立っています。
城内のコンデ美術館、まずはそんな解説から入り、レセプション会場での正餐に使用していたテーブルウェアなども見ながら・・・

メイン目的であるシャンティイ窯の部屋へ。
フランス陶磁の美は18世紀の軟質磁器にあり、と言う人が多いのも宜なるかな、昨日のセーヴルの軟質磁器も然り、今日はそのセーヴルよりも早く軟質磁器の窯を開いたシャンティイ窯。

柿右衛門を愛したコンデ公が庇護したシャンティイ窯の軟質磁器についての解説を聴きながら、作品を堪能した後は、城内レストランにてランチ、総評、ディプロマ授与式です。全員にディプロマが授与されました。

午後は厩舎や馬具美術館を訪れたり(シャンティイには有名は競馬場があります)、広大なル・ノートル設計の庭を散策したり、シャンティイ城の居室部分を見学したりしながらシャンティイ領地を堪能し、夕刻の電車でパリに戻りました。

ご参加いただいた研修生のみなさま、5日間お疲れ様でした!

典雅のセーヴル!

研修4日目。今日はいよいよフランスが世界に誇るセーヴル焼きのセーヴル訪問です。
セーヴルはパリの郊外、メトロで行くことも出来ますが、ミニバスを配車し、ちょっと優雅に参りました。

午前はセーヴル製陶所の工房をガイディング見学、もちろんプライベートで訪れることはできません。成形技法、焼成の技法、装飾技法、研磨技法などを実際に製陶所に潜入して、見学します。今回のガイドは、なんと日本で巡回した「フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年」展を企画したセーヴル陶磁都市解説員モアンヌ前田恵美子氏。シュヴァリエを叙勲されている文化人にして専門家、これ以上のガイドはありません。期待を裏切らず、非常に丁寧で詳細な解説をしていただきました。

かつての王立磁器工房は、現在ではフランス国営の製陶所。200人ほどのスタッフはゆえに全員国家公務員、今でも18世紀の製法を忠実に再現し、作り続けられています。おそらく恐ろしいコストのかかる製法、民間ならとっくに「効率や生産性」を問われて、廃窯となっていたかもしれません。国営だからこそできる、フランスの誇るべき芸術です。

といっても無尽蔵に贅沢をしているわけでもなく、たとえば金彩を施したものは、壊れても金だけは回収し、次の作品へ使われます。工房には「金専用のゴミ箱」まで設置されており、金粉1粒でも持ち帰ることは出来ません。

頭の中がパンクした後は、すぐ近くに出来た坂茂設計のミュージックホール、ラ・セーヌ・ミュジカルへ。元々ルノーの工場跡地がしばらく放置されており、ようやく再開発が始められたところに、このミュージックホールが完成し、景観を一新しました!

この建物内のレストランにてランチをいただき、屋上まで上がって再開発地区を眺めた後は、カロリーを消費すべくぶら歩きしながらセーヴルに戻ります。

午後はセーヴルの美術館側の中でもヴァンセンヌとセーヴルの18世紀のコレクションを中心にアンヌ・コリヴァノフによるガイディング見学、とどっぷりセーヴル磁器の世界に浸った1日でした。

7人の陶磁絵付け師が誕生!

研修3日目。
今日の午前中はフリーです。有志のみでサン=シュルピス広場で開かれているアンティーク・フォワールへ。

このサン=シュルピスのフォワールは、場所柄もあり品物の質の高さで有名です。青空市であってもテントが設置され、ほとんどのものはショーケースに展示されており、一流のアンティーク品。お値段もそれなりですが、最近ではカード端末機を備え付けてある店も多くなりました。
11時のオープンと同時に入り、まだスタンドが開店準備をしている中、早速物色し始める参加者たち。やはり今回はテーマがテーマだけに陶磁器に目が行きやすく、「あ、ランブルカン文様」「あ、セーヴル、この時代は軟質磁器だ」と、もうみなさんかなりの目利きに。

午後は、ジアンの絵付け体験です。
陶磁器の絵付け、顔料がどうの、文様がどうの、やれこれはプリントだ、これは手描きだ、と座学でいろいろ学びましたが、実際に手描きで絵付けをしたことがある人はほとんどいません。というわけで、今日は陶磁器の絵付けというものを実際に体験してみます。

日本語が上手でジアンで研修をしていたソレンヌ・コラによるジアン工房の説明をまずは伺います。
ジアンは19世紀になってイギリス人がフランスに開いた窯で、ルーアンのような錫白釉陶器ではなく、ファイアンス・フィーヌと呼ばれる精陶器。白い土を使い、なんと少量ながらも磁器に使用されるカオリンが含まれています。多くのファイアンス・フィーヌの窯が20世紀も終わりになって次々と閉窯していく中、ジアンは今でも素晴らしいテーブルウェアや鑑賞陶器を製作し続けています。

いよいよ絵付け体験。実はこのアトリエ、自由に絵付けをするのではなく、あらかじめ輪郭が白磁にプリントされている、「塗り絵」でした。
すべての白磁に同じ輪郭が描かれているのですが、使用する色や筆によって、全く違った作品に出来上がります。

みなさん初めてながらも素晴らしい出来栄え、「モネ風」あり「ゴッホ風」あり「水墨画風」あり。

今回のアトリエは元々焼成しない前提で行っているため、顔料にはグアッシュを使用しています。
実際には顔料はブルーならコバルト、黄色ならアンチモア、などと自然の原料を使用し、かつ焼成温度によって色が変わってきますが、今回はこのまま顔料を安定させてお持ち帰り。