海外研修」カテゴリーアーカイブ

オンライン海外講習 鬼才のジュエラー・ジャン・ヴァンドームの世界

1ヶ月ぶりのパリと繋いでのオンライン海外講習、今回はジャン・ヴァンドームの世界について行いました。ジャン・ヴァンドーム・・・誰それ?というのは普通のリアクション、フランス人でも知らない人は多く、昨年展覧会が行われるまでは宝飾業界の人や現代アートに詳しい人以外にはそれほど知られているわけではなかったのです。

Jean Vendome

ハイジュエリーメーカーとして知られるヴァン・クリーフ&アーペルは、ジュエラーのための学校を経営しています。そのエコール・ヴァン・クリーフ&アーペル(パリ)にて2021年、ジャン・ヴァンドームの展覧会が開催され、フランスでは大変な話題となりました。

展覧会の様子はこちらからも見ることができます。

この展覧会を現地で鑑賞したアンヌ・コリヴァノフより、ジャン・ヴァンドームの生い立ち、その名前の由来、職人ではなくアーティストとしてのジュエラーの哲学、シュール・レアリストたちとの関わりやその影響など、独特な世界観について教えていただきました。

ジャン・ヴァンドームの使用する素材は、決して貴石ばかりではなく、また研磨やカットのされていないsauvage(そのまんま)の状態で宝石に加工し、さらには恐竜の化石の骨やアンモナイト、蟹のハサミなども使用しています。奇抜すぎて宝石への冒涜だ!と感じた人もいたのでしょうが、いつの時代も新しいアートは既存の概念を壊して作られるもの・・・ただジャン・ヴァンドームは石と金属をとことん熟知しており、その石の最良の部分を引き立つようにデザインしているのに過ぎないのです。

この鬼才のジュエラー、ジャン・ヴァンドームの作品は昨年の展覧会により知名度も増して、今や世界各国の美術館が所蔵に躍起になっているとのこと。パリ装飾美術館ではその何点かを鑑賞することができます。

オークションでも近年値が上がっているようです。没後間もないため、まだそれほど市場に出回っていないこともありますが、すべてが1点もので、「アーティスト」的に知名度が出てきた作家の作品、今後はどのような評価を辿っていくのでしょうか。「ジャン・ヴァンドーム風」のアクセサリーはもう既にパリのショーウィンドーに並んでいそうですね。

6月のオンライン海外講習は、6月13日(月)、次回は「ルーヴル美術館のイヴ・サン・ローラン」です。

新生サマリテーヌで見る、アール・ヌーヴォーとアール・デコの面影

今年よりスタートしましたオンライン海外講習、3回目のテーマは、昨年2021年に16年の改装期間を経てリニューアル・オープンした、パリの中心に位置する百貨店サマリテーヌの外装・内装に見られるアール・ヌーヴォー装飾、アール・デコ装飾について、行いました。

まずサマリテーヌという屋号の源になった、サマリアの女とキリストの装飾が描かれた給水塔のあったポン・ヌフの歴史、サマリテーヌの創業者エルネスト・コニャックと小説家エミール・ゾラとの関係やその影響性、フランツ・ジュールダンのアール・ヌーヴォー建築にアンリ・ソヴァージュのアール・デコ建築、そして我らが誇る現代日本の建築家ユニットSANAAによる新生サマリテーヌのガラスのファサード建築を多くの写真、ビデオなどと共に見ていきました。

多くのファッションメディアで新サマリテーヌの様子は取り上げられていますが、ファッションブランド紹介やグルメ紹介程度の記事ばかりの中、今回の講習では100年に渡る建築と内装の詳細を、エルネスト・コニャックと妻マリー=ルイーズ・ジェイによる福利厚生の実態、サマリテーヌの広告によるストラテジー、LVMHグループがパリ市との契約により負った社会貢献・・・そんな数々のエピソードを入れながらのお話でした。

雑談も多く入れこんでしまったため予定時間を大幅に越してしまい、日本時間の夜19時からの開催だけに、受講者のみなさまもお疲れだったかと思います。このオンライン海外講習はオンデマンド視聴が可能となっていますので、よろしければまた再度ゆっくりと聞いていただけましたら幸いです。

次回は5月9日(月)に、ジャン・ヴァンドームの世界を繰り広げます。

オンライン海外講習、第2回は「 オテル・ドゥ・ラ・マリーヌ、よみがえった元王室家具保管所」

第1回のカルナヴァレ美術館に続き、第2回は話題注目のオテル・ドゥ・ラ・マリーヌ、パリの新アート・スポットをパリの講師とZoom中継で結ぶ講習です。

パリで有名な広場の一つ、コンコルド広場が現在の名前になるのに何度も改名された、その変遷と由来、コンコルド広場で行われた数々の歴史的な出来事について、残された版画や絵画、写真などでたどります。

そして長年一般には閉ざされていた旧海軍省オテル・ドゥ・ラ・マリーヌのあの建物は18世紀にはどんな用途で使われ、誰が住んでいたのか、革命後にどのように改修されて海軍省が使用していたのか、そして21世紀の現在、一般公開することになったきっかけやそのための改修、セノグラフィー、果ては改修に国家予算をいくら費やしたのか、建物の生い立ちから再生までをたっぷりと学びました。

<18世紀を再現したテーブルアートですが、実は19世紀と混在しています。>

今回は、まず最初に小栁由紀子先生より日本語での解説をいただいたことで、フランス語話者もそうでない方も、基本的なバックグラウンドが頭に入ったところで、実際に訪れたアンヌ・コリヴァノフ先生による詳細解説、こちらもいつものように熱が入りすぎ、また渾身丁寧な通訳も合わせると気づいたら21時となっていました。

ご参加のみなさま、お疲れ様でした。

さてフランスへの入国はワクチン接種済みなら陰性証明も不要、また14日よりワクチンパスの緩和に室内でのマスク着用義務も廃止、日本への帰国時の隔離も今月よりなくなり、いよいよ旅が出来そうかなと思った矢先のウクライナ戦争・・・早く地球上で平和が訪れますように。

オンライン海外講習、第1回は生まれ変わったカルナヴァレ美術館

2020年の海外研修を延期してそろそろ2年になろうとしています。なかなか次回の海外研修計画が立てられない中、パリの講師とつないでのオンライン海外講習をスタートしました。

第1回目は、生まれ変わったカルナヴァレ美術館。パリ市の歴史博物館です。老朽化のため4年の改修工事を経て、コロナ禍の2021年にリニューアルオープンしました。1つの町の歴史としての博物館では世界最古で、オスマンによるパリ大改造の中、1880年に誕生しています。

コレクション数で言えば60万点を越しルーヴルを上回ると言われているこの館、そのコレクション数も膨大ですが、今回のリニューアルであらたに登場したのが看板展示室。

現在ではどの建物にも住所の番地が割り振られていますが、かつてはその建物が何屋さんであったかを示すアイコンのような看板が掲げられていたとかで、その看板展示室から見学をスタートします。

この新設された階段も、アンヌ・コリヴァノフ講師曰く、「最初に目に入ったときはとてもショックでした。伝統ある歴史博物館にはそぐわない、モダンすぎる装飾で酷いセノグラフィーだと感じたのです。でも見学をしていくうちに、この階段のおかげで美術館の順路も非常に機能的かつ効率的で、見学を終えて振り返ってみると、あの階段はもうなくてはならないもののように思えてきたのです」と。

そしてやはりこの館を紹介するには外せない、セヴィニエ侯爵夫人。この人が暮らしていたからこそ、この地が博物館になったのですが、その経緯についてたっぷりとお話しいただきました。彼女の美しいポートレートには多くの質問も寄せられました。デコルテのローブ、左右非対称な着こなし・・・

ミュシャの装飾のジョルジュ・フーケ宝飾店、コルベール・ド・ヴィラセール侯爵邸、ジョゼ・マリア・セルト・イ・バディアによる、ウェンデル夫妻の館の舞踏の間・・・ため息の出る装飾に、やはり画像だけでは物足りない、早く行かなくては!という気になりますね。

受講者の中にはフランス語を学んでいる方も多くいらっしゃって、久しぶりに生のフランス語での説明が聞けて、楽しかった、というご感想もいただきました。でもなんと言っても小栁由紀子先生の完璧かつ補って説明してくださる通訳があってこそ、理解も深まるというもの。小栁先生、有難うございました。

次回はオテル・ド・ラ・マリーヌをご紹介いただきます。

2020年春・公式海外研修は延期に

本来なら本日スタートの2020年春の公式海外研修、現況下で実施することは当然できず、秋に延期となりました。
 

 
コロナウイルスが日本で騒がれ始めたのは1月、それは中国・武漢で発生した地域伝染病と言われており、中国のお正月である春節に多くの中国人観光客が日本に来るから日本も対策をしないと危ない、とすでに防疫体制は敷かれていたものの、この時点では世界が現在のような状態になっていくとは誰が想像できたでしょう。日本では春節の観光客目当てに商売をしていた人たちが経済危機を訴える声の方が、健康の心配をする声よりも大きかった気もします。
 
当研修は現地集散型で行うため、旅行会社の役割は担っていません。しかしほとんどの参加者は飛行機に乗って海外へ行って参加するわけですから、その部分も含めて現地側のフランス人スタッフ、日本人スタッフ、関係者らとは常時協議を重ねてきました。東洋人の差別はどういう状況なのか、中国人観光客の減少によってどんな変化が起きているか、ヨーロッパにおける検疫や医療の状況はどうなのか…。
 
ニュースというのはニュースになるほど大げさなことだけがクローズアップされますので、例えば東洋人の差別はそこかしこで行われているのか、それとも心無い一例だけが事件となってニュースとなっているのか…せっかく大枚をはたいて海外に行って学びに行くのですから、嫌な思い、不快な思いをするとわかっていて出かけたくはないものです。
 
日本でのニュースは情報が操作されたり偏りがちだと言われていますから、フランス語、英語でのニュースも毎日追っていました。この時期は実に多くの情報収集に精を出し、現地に住んでいる人よりも詳しくなっていた気もします。
 
研修参加の締め切りはスタート1ヶ月ちょっと前の2月15日。直前での申し込みもあったりでこの時点では参加者もみなさん行く気まんまん、ただ普段より健康に注意してちょっと気を引き締めておかなくては、程度だったと思います。またヒアリングしている限りでは現地情勢もそう混乱はなく、むしろお得意のデモやストが期間中に起きはしないかという方が心配でした。黄色いベストの運動も相変わらず続行していましたし、12月からのストの余波も多少残っていましたから。
 
ちょっと風向きが変わったな、と感じ始めたのは2月後半、ダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に停泊していたこともありますが、日本の感染者が100人を越し、ヨーロッパでも感染者が次々と確認され始めました。そして2月末にはイタリア北部が大変なことになっていきます。
 
やがて2月末には日本で学校が一斉休校になり、大規模イベント、文化活動の自粛要請がされていきます。
 
この時点でもまだ研修地フランスは「安全圏」とされており、外務省の渡航に関する規制は何も出ていません。渡航制限も入国制限もされてはいないものの、我々日本人が快く受け入れてもらえないのでは、という心配の方が先立ちましたが、受け入れの講師陣らからは、楽しみに待っているから、と。パリでは一大イベントであるパリ・ファッション・ウィークも予定通り開催されています。
 
参加者のみなさんへのアンケートでも「せっかく予定、準備しているし、行けるのであれば行きたい」派が「場合によっては中止もやむを得ない」派よりも多勢でした。すでに予約済みの航空会社やホテルなども「中国からの渡航者なら払い戻し可能」という感じで、日本人が特に渡航を制限されているケースはありません。
 
訪問地の最終調整をし、すべての手配を整えた3月上旬、ヨーロッパが大きく戦況が変化していきます。ルーヴル美術館のスタッフが、「自分たち労働者の安全が守れない限りは開けない」とストをし3日間クローズ、やがて5000人以上の集まり禁止が1000人に、そして100人に…。私たちの研修は講師やスタッフを入れても10名未満、団体というよりは小グループですが、ちょっとこれは先行きが危なくなるかも、と楽観視してはいられなくなりました。
 
実施場所が海外だけに少なくとも開始日の2週間前には決定をする必要があり、連日現地スタッフらと多視点から協議、検証していましたが、最終的には決定日の前日になってようやく、今回は大事をとって時期を延期にしよう、という結論に至りました。
 
まだこの2週間前の時点では決行するという可能性もあったのですが、以降日に日に急速に事態が悪化していき現況に至っていますので、この時の判断に関しては本当にギリギリセーフという感があります。
 
3月24日、予定では朝10時からウェルカム・コーヒーを楽しんだ後、「建築と室内装飾様式に関する概論」「19世紀のブルジョワ宅にみる室内装飾とオブジェ」の講習が行われるはずだった地のパリでは外出禁止令が出ており、一斉休校は最悪新年度が始まる9月まで続くかもしれないというニュースも。地域によっては夜間完全外出禁止となっているところもあり、戒厳令が敷かれています。
 
世界中でこの感染が一刻も早く終息し、そして本研修が無事実施できる日を願って。

P.S. 手を洗いましょう!!