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合格された方、おめでとうございました

第9回アンティーク検定試験の結果の通知を行いました。今回あらたに合格された方、おめでとうございました。今回は初のオンライン試験ということで、並並ならぬ苦労や不安もあったかと思います。そのような中での合格、喜ばしい限りです。

「アンティーク検定試験」につき、級ごとのレベルに関して、お話しましょう。

3級は「目標:西洋アンティークに関する入門的な知識を持ち、コレクションを楽しめる」とあります。具体的にはどのようなことを言うのでしょうか。たとえばお店の人に「バロック風」「ロココスタイル」「ヴィクトリアン」「アール・デコ」と言われて、それがいつの時代の、どのような特徴を持ったものかわかるでしょうか?「これはボーン・チャイナです」と言われ、それが何を意味するのかわかるでしょうか?「このシャンパンフリュートは高いですよ、クリスタルですから」と言われ、クリスタルの定義がわかるでしょうか?3級の入門知識とは、このようなものです。特に体系的な学問としての装飾美術を勉強していなくとも、少しはこの世界のことが普通の人よりもわかる・・・といったレベルです。

現に大学生の場合、知識ほぼゼロのまま4月から西洋美術史や西洋文化史といった授業をスタートして(今年は5月にずれ込んだ大学も多かったようですが)、例年6月末〜7月初旬の検定試験を受験するわけですが、2ヶ月あまりでなんとか基準点の60%をクリアできる学生さんが輩出されていますので、少しだけ「お勉強」をがんばれば合格も夢ではありません。

ところが2級となると、ぐっとグレードが上がります。大抵どんな検定試験でも同じですが、3級と2級の差は結構あります。日本で幅広く普及している検定試験の一つに、公益財団法人・日本英語検定協会が実施している「英検」がありますが、英検3級が中学卒業程度、英検2級が高校卒業程度、となっています。文科省の統計によりますと高校の英語授業時間数の合計が3年間でだいたい1500時間くらいですので、英検3級合格後に英検2級を合格するのに、そのくらいの勉強量が必要となります。これが3級と2級の差と言えるでしょう。

アンティーク検定試験も、2級は科目数も4科目となり、そのすべてで基準点を満たす必要があります。これが「目標:ヨーロッパの人々が一般に知っている装飾工芸美術の流れやスタイルを理解し、主な工芸品について、知る」に該当しますので、3級を合格して、すぐに2級を受験してもなかなか大変なのが現実だと思います。マニエリスムにどんな作家がいましたか? アイリーン・グレイが好んで使用していた家具の資材は何ですか? サイズの表記で縦横高さの順番は美術図録やオークションカタログではどのような順序で表示しますか? 京都市京セラ美術館の新館長にして建築家は誰ですか? このような問題が出題されます。

2級以上の試験は、海外研修参加者の場合3科目が免除合格となる優遇制度がありますので、それを利用して西洋美術史だけ受験して合格するパターンがあり、これですと西洋美術史は書籍も多いですし、問題も時系列的に出題され、奇をてらった問題や引っ掛け問題はありませんので、真面目に美術史の通史を1冊理解できれば合格はかなり近くなります。

一方ですべての科目を受験する場合、1回で合格する受験者はかなり少なく(元々学芸員の資格保持者であったり、大学で専門に美術史を学んでいた人などはこの限りではありませんが)、アンティーク講座を1年、2年と受講し続けて、2年越し3年越しで合格、というパターンが一般的でしょうか。この4科目のうち、独学で勉強できるのは西洋美術史、そして美術市場や展覧会情報などにアンテナを常に張っていれば比較的わかるのが現代時事アンティークですが、西洋装飾美術工芸史、外国語(これは外国語の試験というよりは、やはり西洋装飾美術工芸史の一種です)となると、勉強の仕方もわからないし、本もないし・・・となってしまうのが現実でしょう。参考文献は紹介してはいますが、各分野毎にさまざまな視点での書籍はあるものの、なかなかまとまったものはありません。

本協会のAEAOサロン倶楽部や、代表が務めるアンティーク講座などでは、まさにこの「勉強の仕方もわからないし、本もないし・・・」といった分野を主に扱っておりますし、本協会主催の海外研修も、普通にはなかなか学ぶ機会のない西洋装飾美術工芸史にフォーカスした研修を行なっていますので、独学ではなかなか習得できない部分を補完しています。

また、合格となるためにはすべての科目の基準点をクリアする必要がありますが、1科目でも基準点に達した場合、一部合格として、次年度再挑戦に限り、その科目が免除されるシステムを採り入れています。これは通訳案内士などの資格試験も同様のシステムですし、1次試験と2次試験が存在する試験では、1次試験合格者で2次試験が不合格であった場合、1度だけ1次試験が免除されるという資格試験があり、当検定試験もチャンス拡大に向けてこのようなシステムを採用しています。

2級は1つの「壁」ではありますが、2級を合格すれば、知識の習得は完了です。というのも1級は2級以上の知識が求められるわけではなく、1級の「目標:ヨーロッパにおけるアンティーク市場の現代事情や傾向を把握し、また多様な工芸品の知識や歴史をより深く理解する」は、アウトプットの力が試されるからです。

1級の試験に合格した人は、みな声を揃えて「2級の方が難しかった」と言います。それは2級までがひたすら幅広く知識を習得するエネルギーが必要なのに対して、1級はそれらの知識を自ら披露してアウトプットする作業であり、試験では設問を選択して回答できるからです。

もともとこの世界が好きな人が受験する試験ですから、絵画でも工芸品でも自分の好きな分野、得意なジャンルがあり、試験ではそれらを選んで回答すれば合格に近づきます。ただ日本では自ら表現する機会があまりなく、与えられたものを答える、という試験が一般の学校教育ですので、その視点をチェンジする必要はあるでしょう。 

なお、試験が苦手、大人になってまで試験なんて受けたくない、という大人の資格試験希望者のために、3級と2級は「検定講習」も並行して実施しています。どちらも集中講習で、8割以上の出席が必要となりますが、緊張せず、学びながら資格を取得したいという人にはこちらの方が向いています。週末を丸々講習に充てるのと、少人数制講習のため費用もかかりますが、確実に級は取得できます。また検定講習のレベルは検定試験のレベルと同様です。

今回の検定試験で惜しくも基準点に足りなかった方、合格のためのアプローチは色々ありますので、どうぞこれに懲りず再トライしてみてくださいね。

第9回アンティーク検定試験が行われました

7/5(日)に第9回アンティーク検定試験が行われました。今回はコロナ禍の中、会場試験ではなく初のオンライン試験となりました。

オンラインということで躊躇した方もいらっしゃった一方、主に地方在住者にとってはわざわざ東京まで行かなくても自宅で受験できるというメリットもあったのでしょうか、最終的に受験志願者数は過去最高となりました。この数には、今年に限り大学生・大学院生の受験料の無料措置による恩恵もあったかと思いますが、これまでは大学生の受験者は数校で見られましたが、今年は二桁に上る数のさまざまな大学の学生がトライする結果となりました。

オンラインと紙ではどのくらい受験時の思考に差が出るのか、といったことは多くの研究機関がまさに研究段階にあるようですが、ざっと結果を見た限りでは、合格基準点に達する比率などは通常年とあまり変わらないようでした。論述のみの1級で大きな差が出るかとも思いましたが、逆にこちらでは普段紙に文章を書く習慣が薄れているためか、パソコン入力により誤字なども減り、結果としてはプラスに働いたように思えます。

いずれにしても、受験者側も初めての試みで過去に例のない中、今回出願し受験されたモチベーション、向学心を高く評価したいと思います。

結果につきましては8月以降、順次お送りしていきます。
本試験は学校の成績のような相対評価ではなく、絶対評価です。今回の試験で多くの受験者が合格していることを祈っています。

また来年2021年はアンティーク検定試験・第10回を迎え、検定のあり方を大きく見直すプロジェクトが進行中です。そもそもこの試験は、知識を詰め込んで記憶することを目的にしてはいません。そうはいっても正しい知識がないままモノを見ることもできませんので、3級・2級は主に正しい知識をインプットして、西洋装飾美術の世界を体系的に理解するという基本を身につけ、1級ではすでに得た知識をどうアウトプットしてモノを見ていくか、というベクトルでモノの見方を身につけていく方針に変わりはありません。

どのような形式になるかは外部の有識者などの意見も取り入れ、来年早々には発表したいと思っています。また本検定試験の合格者に対し、認定をより公式なものにするためのステップも進行中です。

尚、2級までは試験ではなく講習でも取得できます。第6回アンティーク検定講習は、緊急事態宣言などが発令されていない限り、今秋人数を制限した上で実施の予定です。詳細は近々発表いたします。

第9回アンティーク検定試験はオンラインで!

コロナウイルス感染拡大の影響はあらゆるところで広がっています。
本協会も3月の海外研修を延期として以来、すべての活動が休止に追い込まれておりますが、7/5にすでに会場も予約済みの年に1度の第9回アンティーク検定試験をどうするか、随分といろいろ議論を重ねてまいりました。そして結論として、今回初のオンライン試験を実施することと致しました。
 
他の検定試験の動向も注視していましたが、3月以降多くの検定試験が中止、延期となっています。検定試験は会場に多くの受験者が集まり、また一定時間部屋の中は密室となります。窓を開けて行えば外の音も聞こえて集中力も散漫してしまう…決してこの時期優先して行うことではない、そう考えた多くの検定試験主催団体は中止や延期を発表しています。
 
アンティーク検定を予定していた会場も、東京都内の大学の教室です。大学の授業ですら行われていない中で今回の検定試験を実施するのは無謀だと判断し、会場試験を見送ることといたしました。
 
時期を延期することも検討しましたが、ポストコロナはある日を境にウイルスが絶滅して危機がゼロになる、というものでもなく、当面は「新しい生活用様式」でウイルスと共存していかなくてはならないようで、そのタイミングも難しそうです。
 
アンティーク検定は講習で取得することもできますが、年に1度の試験を目指している方も多く、また1級は試験でしか取得できません。丸々1年延期してしまうと予定が狂ってしまう受験者もいらっしゃることでしょう。
 
そこで、今回初のオンライン試験を実施することとなりました。すでに小学校でもスタートしているオンライン授業、日本も他国に比べて若干遅れているようではありますが、徐々に教育機関ではオンライン化に移行していますので、普及するのも時間の問題でしょう。
 
試験をオンライン化するには多くの課題があり、また受験者側でも不安な点などあるかと思います。試験問題が送られてこない、突然ネットが繋がらなくなってしまった、変なところを押したら解答を送信してしまった…このような不測の事態への対応策も事前に考えておかなくてはなりません。
 
でも何が起きるかわからないのは世の常、確か2年前のアンティーク検定の日も、西日本の豪雨で試験のために上京できなかった受験生がいらっしゃいました(翌年、振替受験となりました)。会場試験でも台風やら豪雨やら、不測の事態の可能性はゼロではありません。そう考えるとオンライン試験も同じです。
 
逆に良い面を考えれば、これまで東京のみで開催されていた試験が地方に居ながらでも受験できます。交通費もかかりません。当日受験票をうっかり忘れて守衛さんに会場に入れてもらえず試験を受けられなかった、ということもなくなります。また緊張に弱い方などは、ご自宅でリラックスした環境で試験が受けられます。そう、良い面だってあるのです。
 
オンライン試験に関するFAQもこれからupしていきます。
今年はオンライン試験元年ということで、受験者のみなさまも是非トライしていただければと思います。

第5回アンティーク検定講習・2級

4日間に渡って行われました第5回アンティーク検定講習・2級が終了しました。
 
すでに上位級を取得しているにも関わらずこの講習を何度も受けられている方もいて、懇親会では「この世界におけるアンテナの張り方がわかった」「なにをどう紐解いていけばよいかの入り口がわかった」という感想もいただき、評価をいただいてはおりますが、今後も新しい挑戦、新しい取り組みに向けてより有意義な講習を目指していきたいと思っています。
 
2級の講習は西洋美術史、西洋装飾美術工芸史といった座学の講習に加え、実際にいきなり陶磁器やガラスを目の前に置かれて「はい、鑑定」とdescriptionを書く練習、銀器を手にとって刻印を読み取りながら年代や生産地を解明していく練習、さらには英語のオークションカタログの読み方や写真と写真製版の違いを学んだり、現代アートマーケットについての事情を学んだり、建築物を見学したり、と実践も伴う講習で、よりアクティブな参加型となっています。


 
今回の見学は、日本の洋館建築に焦点を当てて行いました。フランク・ロイド・ライト建築では日本に4館しか現存しないうちの1つ、豊島区にある自由学園明日館、そしていよいよ今年2020年には金沢に移転してしまう、北の丸公園に面した東京国立近代美術館・工芸館の旧近衛師団司令部庁舎を訪れました。日本の明治建築とヨーロッパにおける歴史主義建築の関連や、建築と家具が如何に密接に繋がっているか、また家具の中でも特に椅子に建築の特徴が表れやすいのか、などについて知ることができました。


 
ディプロマ授与と懇親会は、パレスホテルのラウンジ・プリヴェにてアラン・デュカスのアフタヌーン・ティ。フランス式なのか、キュウリのサンドイッチもスコーンもなく、その代わりサーモンのガトー レモンクリーム キャヴィア やらオリーヴとバジルのケーキやらを、何度でも飲み変えができる各種お紅茶とともに楽しみ、日が暮れた旧江戸城を見下ろしながらのひと時でした。


 
ご参加いただきました皆様、お疲れ様でした。
 
次回第6回のアンティーク検定講習は、9月〜10月ごろに実施の予定です。
 

第5回アンティーク検定講習・3級

新年早々の3連休ですが、1/11-12の2日間、アンティーク検定講習・3級が開催されました。今回も西は奈良県からこの講習のために上京しご参加いただいた方もいて、また職歴も年齢もさまざまな方達が、ただ「アンティークが好き」「西洋装飾を勉強したい」という共通点の元に集まった講習会でした。
 
初日のウェルカムコーヒーで初めて顔合わせをし、自己紹介。近い将来アンティークディーラーになりたい、アンティーク雑貨店を開いてみたい、ヨーロッパの美術館や古城を訪れるのに、ベースとなる西洋美術・装飾の知識を身に付けたい、アンティークジュエリーに惹かれて、その背景を知りたくなった・・・いろいろな理由と目的で偶然集まった方達です。
 
2日間と短期間ではありますが、3級は装飾様式の歴史、西洋家具、銀器、陶磁器、ガラスと一通りの基礎を学び、実際にモノを鑑定する際の指標も覚えます。
 

 
試験ではなく講習で級を取得する場合、「参加すれば級が取れる」というメリットはありますが、講習に参加する方達は、おそらく試験を受けても合格するであろう能力のある方達がほとんどです。みなさん「1人で本を読んで勉強するより、同じような趣味の仲間と知り合って、みんなで勉強して内容も納得した上で取得したい」という趣旨で、あえて貴重な時間と費用をかけて参加される方がほとんど。講習でレクチャーを受けた後に、実際の「アンティーク検定試験」の問題を解いてみるのですが、みなさんモチベーションが高いためか知識の定着も素早く、実際45分の授業を受けただけで、その分野の問題はほぼ完璧にできてしまいました。
 
今回の課外授業は渋谷区立松濤美術館で開催中の「サラ・ベルナールの世界展」。1世紀前の一女優の展覧会がなぜ?そもそもサラ・ベルナールって誰?参加者の間でも、女性陣はほぼ知っていて、男性陣は「うーん?」と知名度がイマイチでした。この展覧会を3級の課外授業に取り上げたのには理由があります。
 
アンティークとは装飾美術であり、装飾美術を牽引していたのは、かつてはその国の王様、だからこそ「ルイ15世様式」「ナポレオン様式」「ヴィクトリアン」などと呼ばれていたのですが、その王様がいなくなってしまったとき、一体誰が流行の発信源だったのか?文化、風俗を牽引していたのは誰だったのか?というと、その1人が今回のサラ・ベルナールだったりするわけです。
 

 
本展覧会の監修者でもあり、アンティーク検定の総監修者でもある岡部昌幸先生に展覧会の苦労話や設営上の工夫、所蔵元の違いなどの裏話的なお話も含めた解説をしていただいた後は、みなさんで昨年12月にオープンしたばかりのラデュレ松濤へ。


 
シャンパーニュ・夜パフェセットと共にディプロマ授与式を行い、2日間の濃い講習会が終了、参加者全員がディプロマを手にし、鑑定士の卵があらたに生まれました!