AEAOサロン倶楽部」カテゴリーアーカイブ

世田谷美術館「チェコ・デザイン100年の旅」展

10月のAEAO サロンは「チェコの可愛いデザインを求めて 〜ミュシャ、チェコ・キュビスムからチェコ・アニメまで〜」と題して、世田谷美術館で開催されているチェコ・デザインの鑑賞会を行いました。装飾工芸の世界ではミュシャは言うまでもないですが、逆にミュシャしか知らない・・・という人も多いのではないでしょうか。そんな知られざるチェコのデザインを総括した展覧会です。

見学に先立ってのプレ・レクチャー会場は、館内の公園に面したフレンチレストラン『Le Jardin』。窓の外からは緑が生い茂り、とても東京23区内とは思えない風景、日曜日とあってウェディングと思わしき団体がお庭で集っていました。

ちょうど先月国立プラハ工芸美術館を訪問された中山久美子先生(当協会アンティーク・スペシャリスト)が建築も含めた現地の様子をレポートしてくださり、またチェコという国についても歴史や政治をおさらいした上で展覧会の章立てや、チェコ・キュビスムについて詳しく解説してくださったおかげで、会場に足を踏み入れても戸惑うことなく、進んでいけます。

展覧会場は、都心の混み混みした会場とは異なって非常にゆったりとした空間構成、また場所柄や内容の性質からしても、昨今よくあるメディアにそそのかされてとりあえず話題になっているから来ましたよ、という鑑賞者はほぼ皆無、みなさんニッチに好きな人が集まっているという感じが読み取れ、非常に居心地のよい空間でした。

アール・ヌーヴォーから現代までのチェコ・デザインがだいたい10年ごとにブースで仕切られて展示されており、そこには家具ありテーブルウェアあり調度品ありポスターあり、あらためて装飾工芸という分野は、産業、デザイン、機能、この3つの軸で成り立っているのだと感じさせてくれます。

10月は台風や大雨に何度もやられ散々なお天気の月でしたが、この日は太陽も出て暑くもなく寒くもない本当に気持ちの良い日とあって、砧公園は多くの家族づれのピクニックや子供たちのスポーツで賑わっていました。普通は展覧会見学といえば結構歩くので、足も疲れがちですが、緑の中を歩くのは別腹ならぬ別筋肉でしょうか!?ぶらぶらと公園を横切りながら帰途につきました。

お屋敷シリーズ、旧古河虎之助邸を訪ねる

9月のサロンは、お屋敷訪問シリーズ第二弾、昨年9月に行われた第一弾の鳩山会館に続き、今回は旧古河虎之助邸を訪ねる会でした。

お屋敷訪問シリーズを催行するのは季節のよい5月、9月、10月などで、雨さえ降らなければ・・・と思っていたのに明け方はまさかの雨・・・でしたが、ランチの時間には小雨となり、どうやら止む様子。まずはプレレクチャーを、アンティークの調度品が可愛く飾られている隠れ家カフェにて、フルコースランチをいただきながら。

明治から戦前までの日本の社会階層や住居はどんな状況だったのか、なぜこの期間に洋館が建設されたのか、施主はどんな人たちだったのか、どのくらいの女中や下働きの人たちが必要とされていたのか、建築スタイルとしては何様式が多かったのか、持ち家率ってどのくらいだったのか…住まいにまつわる話題は誰にとっても身近なだけに盛り上がったところで、前菜がサービスされました。

特別にお願いして作っていただいたお料理は、どれも丁寧に料理された感がたっぷりの、ヘルシーで美味しいものでした。全員しっかり完食!

ランチを終えて外に出たら雨は止み、それほど気温も高くなく、ちょうどよい庭園散策日和となりました。

そしていよいよ館内ツアー。館内は事前予約制で、館内学芸員によるガイドでのみ見学ができます。この会はほぼ協会サロンの参加者で、ゆっくりと隅々まで鑑賞することができました。

明治〜昭和初期に建設された多くの邸が和洋館並列形式なのに対し、ここは洋館単独として設計され、内部に和館が取り入れられているという、一見外観からはわからない造りとなっています。

学芸員さんによれば、コンドルが設計した「洋館の中に和館を取り入れる」スタイルは4館しか設計しておらず、この旧古河邸が現存している唯一のものだそうです(他の3館は消失)。

洋と和を両方取り入れるのに、よく「折衷」という言葉を使いますが、ここは「折衷ではなく、調和と共存」。和館が存在している様子は外観からは一切わからない、また屋敷から眺めた庭はあくまでもイングリッシュ・ガーデンのみが目に入り、その向こうの低地にある日本庭園は、まさかあるとは気づかない、そんな計算された設計で、言われてみると美しく調和しているのですね。

戦後の財閥解体によりまずは国に接収され、次に進駐軍による接収の後、「30年間、お化け屋敷のように荒れ放題だった、動物も住みついていた」状態の館を数年かけて修復工事、平成元年にようやくほぼ元の状態に復元し美術館としての開館となりましたが、荒れ放題からの修復の大変さ、困難さを経験してきただけに、現在ではスリッパに履き替え、ガイドツアーのみの見学となっています。

30年の空白期間ゆえか当時の様子でわからないことは残っており、たとえば館内見どころの1つである大理石を使用して作られた五右衛門風呂のような丸い浴槽にどうやってお湯を張っていたのかについても、諸説あるようです。

館内内部には冷房施設はなく、扇風機や冷風機のみでした。真夏でなくて、雨上がりの今日でよかったわね、と結果オーライ!まだバラの季節前だけあって、庭の訪問者があまりいないのも、かえって当時の邸の住人になれたような気分を味わうことができました。

好評のお屋敷訪問シリーズ、今度はどこを訪ねましょうか・・・。

パピエ・マシェ、漆に憧れて生まれたヨーロッパの工芸品

8月のAEAOサロン倶楽部は、「パピエ・マシェの世界」でした。日本ヴォーグ社発行『手づくり手帖』Vol.20(早春号)に詳しい記事が掲載されていますが、本誌の創刊編集長にして当記事の執筆者でもあり、また素晴らしいパピエ・マシェのコレクションを所有されている小山ひろ子先生による直々の渾身のレクチャーをご披露いただきました。
 
 

アンティーク界の人以外は耳慣れない言葉かもしれません、「パピエ・マシェ」とはフランス語の文字通り、マシェ(咀嚼された)のパピエ(紙)、英語ではペーパー・マッシュと言います。マッシュポテトでおなじみの「マッシュ」。

果たしてこの技法がなぜある時期、爆発的にヨーロッパ、とりわけイギリスで流行り始めたのか、そのルーツは何だったのか、どんなものが作られたのか、どうしてこの素材に魅せられたのか、やがて下火になっていく原因は何だったのか・・・1時間ではとても消化しきれないヴォリューミーな内容をテンポよくリズミカルに説明してくださる小山先生。
 
このサロンのためにご自宅より重い秘蔵品を私たちのためにお持ちいただき、博物館級の作品を惜しげもなく触らせていただきました。見事な針道具セットは、たとえお裁縫をやらなくても側にあるだけで優雅な気分になれる逸品ですし、また愛らしい小物のボタンやメガネケースなども見せていただきました。
 
レクチャーで印象に残ったのは、英国訪問中、デザイナーのアレキサンダー・マックイーンが買う予定になっていたパピエ・マシェのチェストを小山先生がアンティークショップのガラス越しに目をつけて、売主のディーラーとお話されたというお話。将来の持ち主になる予定だったマックイーンは購入前に自殺してしまったそうで、そのショップに展示されていたのだそうです。お値段はというと、一流のデザイナーが購入予定のものとあってかなりの高額、流石に代わりに買って日本に持ち帰るわけにはいかなかったとか(笑)。お金があっても美の目利きにはなれませんが、いいものはやはり高いのですね、現代においても。
 
 

マイセンと動物ものがたり

7/21(日)に7月のAEAOサロン倶楽部が開催されました。パナソニック汐留美術館で開催中の「マイセン動物園展」を鑑賞するに先立ち、近くのパークホテル東京内にあるフランチレストラン「タテル・ヨシノ・ビズ」にてプレ・レクチャー。夏の蒸し蒸ししたしんどい季節も、さわやかなスパークリングワインと美味しいお料理で、少しは元気になりますね。

(ちなみにお料理はこんな感じ。)

マイセンがヨーロッパで最初に磁器の焼成に成功したのは周知の事実ですが、そもそも18世紀初頭、なぜそれが文化芸術の中心であったヴェルサイユとは程遠いマイセンだったのか、「アウグスト・バロック」と呼ばれたアウグスト強王の『磁器病』はどの程度だったのか、絵付け師ヘロルトや成型師ケンドラーの才能はどんなものだったのか…そんなお話をしながらみなさんでお料理に舌鼓を打ちました。

今回の展覧会はよくあるテーブルウェアではなく、動物がテーマです。動物が器に加飾される多様性、メナージェリと呼ばれる宮廷動物園の計画による動物や鳥の磁器彫刻の歴史は、マイセンの初期から始まっていました。またマイセンの代表シリーズ「スノーボール」に付加された動物や鳥の見事な磁器彫刻も見ることができました。

しかし何と言っても今回の展覧会の「動物園」は、アール・ヌーヴォー期に花開いた動物たち。この時代には、パート・シュール・パートや釉下彩、イングレーズなどの技法で色彩柔らかな表現で多くの動物磁器彫刻が制作されます。

そしてアール・デコ期には、ベットガー炻器の再現でマックス・エッサーによる多くの動物彫刻があらたに誕生、愛らしい『カワウソ』は1937年のパリ万博にてグランプリを受賞します。

夏休み中の展覧会だけあって子供さんも多く、「あ、かわいい!」「これ怖い〜!」「猫ちゃんだー!」といった愛らしい感想とともに、磁器動物園を存分に楽しめたサロンでした。

箱根でラリックとサラ・ベルナールに出会う!

6月のAEAOサロン倶楽部は、箱根にて。仙石原にあるラリック美術館にて開催中の「パリ世紀末 ベルエポックに咲いた華 サラ・ベルナールの世界展」の見学鑑賞を兼ねて、本展の日本側監修者・岡部昌幸先生による見学会です。
 
前泊組、当日の車組・高速バス組などそれぞれの手段で11時に集合、箱根ラリック美術館の企画リーダーである学芸員の浦川佳代子さんがお迎えくださり、ラリック美術館についてのあらまし、特徴などをレクチャー頂きました。
 
そしてカフェ・レストランLYSにて岡部先生によるランチ・セミナー。メニューはサラ・ベルナール所縁の地であるブルターニュの名物・ガレット(スモークサーモンと温泉卵)に、アンチョビとガーリック味の大人のフレンチフライ、鮮魚のカルパッチョ、デザートはいちごのサラ・ベルナールのスイーツと、美味しいとの評判を裏切らないLYSのお味です。
 

 
ラリックの名品がなぜ日本にこれほどあるのか、日本における美術館作りはどんな経路を辿ってきたのか、70年代〜90年代の日本は果たして世界的に美術品愛好国として信頼されていたのか・・・お話は相変わらず右へ左へ揺れつつも、尽きることのないトピックにみなさんメモが離せません。
 
ランチ・レクチャーを楽しんだ後は、見学鑑賞です。ルネ・ラリックのジュエリー、香水瓶、ガラス工芸品、そしてサラ・ベルナール特別展、途中の「サラのサロン」からは、モネの太鼓橋を模した情景がそのまま楽しめます。
 

終了後は自由解散となりましたが、箱根マイセン・アンティーク美術館を訪ねたり、ポーラ美術館を駆け足で巡ったり、渋滞前に箱根を脱出したり、とそれぞれの大人の遠足を楽しんだ6月初旬の箱根。まだ暑くもなく寒くもなく、気持ちのよい日でした。