アンティーク・美術品の鑑定書、評価額とは?

前々回のblogでは、フランスにおける古美術・骨董品の表現方法が法により規制されていることについて、お話しました。

これらの法は、売買の際に規制されるということで、ただ「フランソワ・ブーシェを持ってるんだよ」と友人に自慢しても、もちろん罪にはなりません。ほら吹きでお縄になったらかないませんからね・・・。

さて、その売買の際に、FACTURE(請求書)と並んで、水戸黄門の印籠のごとく存在するのが、CERTIFICAT D’AUTHENTICITÉ(鑑定書、と訳されることが多いですが、ほんもの証明書というニュアンスがある)と呼ばれるもの。

鑑定書が付いていれば何となく信用できそうですが、さて、この鑑定書ってどんな機関の誰が発行していてどういう保証があるのでしょう。

パリ最大のアンティーク・古美術品競売場であるドルーオー会館の周りには、実に多くのオークショニア(commissaire-priseur)、鑑定士(expert)の事務所があり、また競売会社 SVV (Société de Ventes Volontaires)があります。そして、どこでもなぜか「評価額鑑定無料」を意味する、Estimation gratuite という看板が掲げられています。

なぜ、評価額鑑定が無料?鑑定士はどうやって収入を得ているのでしょう?

まず、この「無料」は、あくまでも評価額を口頭で伝えるのみ、の鑑定です。
つまり、文章は一切起草しません。従って、責任も保証も何もありません。

「そうだね、これね、1000ユーロくらいでしょうかね、売り立ててみたいとわからないけどね」といった回答が、この評価額無料コース。

もちろん彼らはプロの鑑定士ですから、その品を自分の競売会社で取り扱ってみよう、これは高値で売れる、というものがあれば、青田買いします。「お売りになるんでしたら、是非うちで。次の競売日はいついつですから・・・」と言って、積極的にその品を預かりたがります。(最終的に、その競売会社を通して売り立てを行う場合は、鑑定料は無料になります。もちろん、売れたら規定の手数料を彼らに支払うのですから、彼らも儲かり、一石二鳥。)

しかし、一般人が「おばあちゃんの家にあった、もしかしたら、お宝かもしれないもの」を持ち込んでも、真剣に鑑定してくれるケースは稀、大抵は「大事にしてください」で終わってしまうのでは、と思います。(フランス語で、C’est charmant (素敵ですね)と言われたら、そういう意味です。)

いや、しかしこれは価値のあるものなのだ、あるいは保険をかけたいから、ちゃんとした書面による鑑定書がほしい、ということになれば、それは有料コース。無料なんかでは全然ないのです。

では、おいくら位かかるのでしょう。Drouot Estimations のパンフレットによれば、このように書いてあります。

Drouot_Estimation

Drouot_Estimation2

評価額(持ち込みの場合)・・・130ユーロ(税抜き)—15200ユーロまでの品の場合

以下、評価額に応じて、鑑定料が上がっていきます。

ダイヤモンドかもしれない、と思って持ち込んだものがガラス玉であったとしても、アール・ヌーヴォー時代のブローチだと信じてたら新作(あらもの)だったとしても、130ユーロ+20%の付加価値税はかかってしまうわけです。

持ち込めない家具や美術品の鑑定を呼んで行った場合は、さらに出張費も加算されます。

書面による鑑定書は、もちろん法に従った記載方法で表現されますので、万が一記載に誤りがあれば、鑑定士がその責任を負うことになります。

フランスのオークショニア(競売吏)、鑑定士についての資格試験などは、追々お話していくことにしましょう。

アンティークや美術品におけるホンモノとニセモノとは?(追記)

 前回のブログで、ルーベンス工房で制作された、弟子だけで描いた作品はホンモノか?というような例を出しましたが、今週の『開運!なんでも鑑定団』で、まさに同じようなエピソードが出ていました。
 

 お宝は、フランス・スナイデルス(1579-1657)の油彩画。ブリューゲル(子)の弟子だった画家です。ヴァン=ダイクともお友達だったようで、ヴァン=ダイクが描いた『スナイデルス夫妻』という肖像画によると、結構ヤサ男。
 

ヴァン=ダイク作『スナイデルス夫妻』

ヴァン=ダイク作『スナイデルス夫妻』

 

 さて、このスナイデルスの油彩画を持っていた依頼人、本人評価額の1000万円に対して、鑑定士の評価は1500万円、但し、この作品はスナイデルスの作品ではなく、スナイデルスが主宰している工房で制作された作品、ということでした。
 

 この時期は絵画制作は工房で複数の弟子たちの元で行われており、ルーベンス工房、レンブラント工房、ヴァン=ダイク工房、など、アトリエ作というのが普通でした。そもそも1人の画家が構想、デッサン、作画とすべて手がけていたのではない時代において、こういう作品はニセモノとは言いませんが、でもスナイデルスのホンモノの作品かというと・・・。
 

スナイデルス『野猪狩り』

スナイデルス『野猪狩り』


 

 こういう工房作品の画家の場合、大きく3つに分けられます。
 
1 画家自らが絵筆を握って描いた作品
2 画家本人がその一部(主に人物の顔と手の部分)を自ら描いた作品
3 画家がスーパーバイザーとして、作品を弟子達に描かせた作品
 
 もちろんこの順番でお値段も下がります。
 
 今回の依頼者のお宝は、3ということで、1500万円。これが1だったら、いくらの値がつくのでしょうね。

アンティークや美術品におけるホンモノとニセモノとは?

 美術品、骨董品、アンティーク品、と言うと、必ず「それってホンモノですか?」と聞く人がいます。
 

 人気のTV番組『開運!なんでも鑑定団』などを見ていますと、「馴染みの骨董店で100万円で買った壷」を鑑定してもらったら5千円だった、というような結果もあり、その場合「ああニセモノだった」となるわけですが…。
 

 「ニセモノ」を語る前に、では「ホンモノ」とは何でしょう。
 

 たとえば、絵画。ルーベンスは分業システムで大量生産をした画家で知られています。助手200人をかかえた大工房での制作。描くのは職人、考えるのは画家、というわけで、彼の場合は構築したに過ぎず、実際に絵の具をキャンバスに当てたのは、ほとんどが助手です。それで、ルーベンスの絵画の値段は、実際ルーベンスがタッチした分量で値段が違うと言われています。
 

 ではルーベンスの工房で、弟子だけで描かれた絵画は「ニセモノ」でしょうか?
 

 フランスでは、美術品を売買する場合、使用される表現は法で定められています。
 

vrai-faux 

 ”De” または”Par“(~による)といった表現に続いて苗字+名前が入っていれば、それはサインがなくとも、その作家自らが手がけた作品、ということになります。
 

 さらに”Signé …”(~とサインされている)とあれば、信憑性に更なるギャランティが加わります。
 

 ”Attribué à …”(~とされる)という表現は、その作家のものとかなりの割合で推測されるものの、ギャランティが得られない場合に使います。ギャランティとは、大家の先生が仰ること、ではなく、必ず証拠品としての文献またはそれに順ずる歴史的事実が必要になります。ただし、この文言が入っていれば、少なくともその作家と同時代の作品であることは証明されています。
 

 ”Ecole“(~派)の後に作家の名前が続く場合、実際に制作したアーティストは、巨匠の弟子であったことが周知の事実で、作風やテクニックを継いでいる、ということになります。
 

 (なお、この表現については、制作したアーティストが存命であるか、死後50年以内でなくては使用できませんので、いくら自分がミケランジェロの彫刻を研究して作風を忠実に再現しても、ミケランジェロ派、とは名乗れません!)
 

 ”Epoque“(~時代)とあれば、その歴史的一定期間、ある世紀、ある時代にその作品が制作された証明があるということです。
 

 ”Dans le goût de“(~風の)、”Style“(~スタイルの)、”Manière de“(~派の趣向で制作された)、”Genre de“(~様式の)、”D’après“(~に倣って)、”Façon de“(~風の)、といった表現があれば、これらにはその作家や様式、時代に関する一切のギャランティはありません、ということです。Style Art Déco (アール・デコ・スタイル)とあっても、それはアール・デコの時代を証明するものでもなければ、アール・デコの様式を証明するものでもない、ということです。
 

 ”Oeuvre authentique“(本物の作品)とあれば、その作品は作家自らの手によって制作されたもの。
 

 ”Original“(オリジナル)とあれば、その作家または作家のコントロールと責任の下で制作されたもの。そのオリジナル作品が、別の既存の作品からインスピレーションを経て制作されたものであれば、その旨も記載しなくてはなりません。
 

 技術によって、複数の作品が出来上がるものがあり、それは法で認められています。その場合、売買人は “tirage” (版)を明記しなくてはいけないことになっています。
 

 ”Reproduction“(複製)の場合は、必ず見える位置に、消えない方法でその旨を記載しなくてはなりません。また、この文言は売買証明書にも記載する必要があります。
 

 こういった表現は、古美術品オークションのカタログを読む際に知識として最低限必要です。たとえば某オークションのカタログに、フランソワ・ブーシェ(1703-1770)の作品の評価額が50-80ユーロとあります。もちろん D’après François BOUCHER と記載されているのは言うまでもありません。このD’aprèsの意味を知らないで、「これはフランスのオークションで購入したフランソワ・ブーシェの作品ですよ」といって売りつけるディーラーがいないとも限りませんので、注意が必要ですね。

 

フランソワ・ブーシェ『ブルネット髪のオダリスク』1749

フランソワ・ブーシェ『ブルネット髪のオダリスク』1749

 
 

(続く)
 

アンティークという言葉の定義

 当協会の正式名称でも使用されています『アンティーク』という言葉ですが、さて、アンティークの定義ってなんでしょうか?
 
 よく一般的に言われているのは、「100年以上前につくられたもの」という時代による括り。 
 
 これにはもちろん根拠があります。
 1934年にアメリカ合衆国で制定された通商関税法に「製造された時点から100年を経過した手工芸品・工芸品・美術品」という文面があり、そしてアンティークには関税がかからないことが明記されています。
 

 そしてこの定義がWTO(世界貿易機関)でも採用されており、加盟国間では、この定義によって100年以上前に作られたものと証明されれば、関税がかからないことになっています。
 もちろん日本もWTOに加盟しています。
 

【WTOの加盟国】
 

 
 
WTO_members_and_observers

 
 この100年の定義は、しかしながらあくまでも関税法という観点からの見方です。通関士や徴税人にとっての定義は100年ですが、一般に語られている『アンティーク』、ヨーロッパの人たちはどのように感じているのでしょう。

 
 2014年現在、100年前と言えば1914年ですが、例えばフランス、前世紀では、1920年くらいまで、すなわちアール・ヌーヴォー期くらいまでを人は『アンティーク』と感覚的に定義づけていたように思いますが、今やそれ以降のアール・デコ期の工芸品も『アンティーク』扱いをしている人たちが多いです。すなわち『アンティーク』とは、現在ではとても製造できないハンドメードの優れた美術工芸品で、芸術的価値のあるもの、という概念が一般的です。
 
art-deco
 
 イギリスでも同じく、昔はヴィクトリアン期のものまでを、大抵『アンティーク』と感じている方が多かったようですが、関税法の定義上でもエドワーディアン期は現在ではれっきとした『アンティーク』、人々の感覚も少しずつ時代と共に移り変わっていきますね。

 
 コンテンポラリーという言葉は、同時代を意味する言葉ですから、50年前の現代アートは、今ではモダン・アートに入って繰り下げ(?)になるように、『アンティーク』の概念も移り変わるものです。でもそれは、時代の括りだけではなく、やはり古くて「価値があるもの」を意味します。

 
 現在大量生産されている工業製品がなんでも100年後に『アンティーク』には入らないように、100年以上前のもの、古いもので、価値のないものは、これから多く出てくるでしょう。

 
 日本で「アンティーク屋さん」と言えば、この辺りが曖昧で、何となく西洋の古い雑貨などを扱っているお店をこう総称しますが、フランスでantiquaire(アンティーク屋さん)と言えば、高級骨董店を意味します。工芸品は必要であれば必ず修復して店に出しますし、来歴、由来のはっきりしたもののみを扱っていて、これがbrocante(ブロカント=古物雑貨屋さん)とは大きな違いです。
 

antiquaire
 
 9月にパリで開かれるアンティーク・ビエンナーレに出店しているantiquaireも、すべてこのカテゴリーの中でも最高級な由緒ある骨董店ばかり。この絢爛豪華なサロンに出店する費用がたしか1ブース辺り10万ユーロ(1400万円)、と聞いたことがありますから…。
 

華麗なるサロン 〜第27回パリ『アンティーク・ビエンナーレ』〜

「ビエンナーレ」とはイタリア語で「2年に1回」という意味ですが、美術界のサロンではよくお目見えする言葉です。
一番有名なのはヴェネチア・ビエンナーレでしょうか。こちらは奇数年の開催で会期も長く、6〜11月くらいまで開催されています。
 
アンティーク界におけるビエンナーレといえば、偶数年の9月にパリのグラン・パレで盛大に行われる『Biennale des antiquaires(アンティーク・ビエンナーレ)』が世界最大の国際アンティーク展示会として知られています。
 
Affiche Biennale 2014

biennale-des-antiquaires-paris

1962年に始まったこのビエンナーレ、今年で第27回目を迎えます。
オーガナイザーはSNA(フランス国立アンティーク組合)
元々はコレクターやディーラー達が、世界各国を飛び回らなくても一箇所でゆっくり作品を見ながら商談できるように、という見本市のような展示会だったのが、昨今ではハイ・ジュエリー界も参入し年々豪華絢爛になり、入場料もアップの一途を辿っていて、今年の入場料は30ユーロ(日本円で約4200円)、カタログは45ユーロ(6300円)。マーストリヒトで毎年開催されるアート&アンティークサロンのTEFAF (The European Fine Art Fair) は欧州最大のゴージャスなアート見本市ですが、こちらの入場料はカタログ付で55ユーロ(7700円)ですから、パリのアンティーク・ビエンナーレの方が入場料に関してはお高いようですね。
 
今年は、更にガストロノミーの世界もコラボレーションしているようで、ビエンナーレ開催期間中の特別メニューが既にご披露されています。
 
11人の星付レストランのシェフたちによる特別メニューは毎日日替わりで、ユネスコの無形文化遺産でもあるフランス料理の神髄が味わえるようです。お値段ももちろんそれなりで、飲み物別で195ユーロ(27300円)から。
 
さて、わたしたちの公式海外研修でも、このビエンナーレをSNAの会員のガイド付で訪れます。
 
アートに関しては、ときどき「下手に美術史を勉強したり解説などを聞くと、本来の作品との対話が薄れる」等と言う人がいます。何の基礎知識も持たずに生のままで作品に向かおうとする姿勢も考え方の一つですが、アンティーク品の鑑賞に関しては、やはりそれでは勿体ないと思います。それでももしかしたらヨーロッパの人たちのDNAには何かしら感じられるものが継承されているのかもしれませんが、わたしたち日本人の生活に馴染みのなかったもの、普段から意識していない様式スタイルなどは、やはり知識ゼロと学んでから鑑賞するのでは、全く見え方が異なってきます。
 
例えばルイ15世とルイ16世の時代背景の違い、当時の社会風俗やそれぞれの奥方(愛人)の気質、そんなことを基礎知識として知りながら見る家具様式の違いは、やはり面白さが全然違いますから。
 
今年のビエンナーレはヴェルサイユ宮殿400周年にちなんだ、宮殿の庭をイメージしたインテリアとなる予定だとか。どんな内装になるのか、今から楽しみですね。