辻清明の茶会

猛暑真っ最中の8月の最初の日曜日、協会の非公式活動ですが有志を募って辻清明の茶会へ参加させていただきました。当協会のアンティーク検定総監修者である岡部昌幸先生が名誉教授をされている帝京大学の茶道部が、年に数回この辻清明の茶室で茶会を開催しており、今回私たちにもお声をかけていただいたのです。何の作法も心得ない入門者の上に「畳に座れない」ミドル&シニア世代なのですが、やはり銘品でお茶がいただけるというので、メンバーの中で車を出していただき日曜日のお出かけとなりました。

場所は多摩の連光寺の近く、高台にあるせいかそれまで汗を拭き拭きだったのが、近づくにつれ涼しい風が出てきて、不思議と汗が引いてしまいました。

この日は何部かに分けての茶会席が進行しているのですが、私たちは到着後、まずは辻清明の御子息の方に登り窯を案内していただきました。辻清明が亡くなられてからは火入れをしていないということで、神々しさが辺り一帯に漂っています。工芸の伝達は家族よりも弟子と言いますが、御子息から生前のご様子や、土を探してくる苦労話、この登り窯の使用についてのエピソードなど色々と興味深いお話を聴くことができました。

西洋の陶磁器のカテゴリーとは若干異なりますが、この焼き締めというのはストーンウェア(炻器)のことですので、通常釉薬は使いません。それではただの土を成型して粘土にして窯に入れれば無地の作品が出来上がるかといえば全くそうではなく、登り窯のどの位置に置くかで煙の方向や火の温度によってどういう景色が表面に表れるのか、そういったことをすべて頭の中で計算して焼くのだそうです。温度管理は勘によって行われるのだそうで、熟練の技なのでしょう。この窯では80時間ほどかけて焼成し、同じ時間をかけて冷却していたようです。

そんなお話を伺った後、茶道部の学生さんから「茶会の準備ができました」と茶室へ案内されます。独立したお茶室で、靴を脱いで、躙口から上がります。頭をぶつけそうになり、とても優雅な姿勢とは言えないまま全員上がったところで、茶会スタート。宝来屋さんのお菓子と芳翠園のお抹茶、そして今回は水指も茶碗も菓子器もすべてクリスタルガラスでした。辻清明のクリスタルガラスも初めて拝見しました。夏の強い日差しが、この茶室でのガラスの影にゆらゆら輝きます。

軸は岡部先生の所蔵品、小早川清の『ひなげし』で、この作品についての解説を茶道部の方に頂いた後、みなさんでちょっとした談義を。日本画家でもフランス印象派を知らない訳はなく、どことなくそんな描写が見られるところなど、美術館では監視員に怒られるような距離で鑑賞できるのも醍醐味ですね。

茶会席の後は、母屋で作陶時のお道具を見せていただいたり、ご家族の方々や他のご参加者の方々と懇親をしたりして、なんだか時代が止まったかのような不思議な時空間に身を置いたひと時でした。