投稿者「antique-kentei」のアーカイブ

第9回アンティーク検定講習・2級

年に2回行われていますアンティーク検定講習、2級の前半の部が3/26-27に行われました。今回の参加者は第8回で3級を講習で修了した方々で、今回の2級を無事終えれば7月の検定試験1級に挑戦できます。1級まで最短で臨める理想的なコースですね。

第1日目は、まずいきなり「鑑定アトリエ」からスタート。クリスティーズのオークションカタログに記載されているdescriptionと呼ばれる記述、これを1つ1つ紐解いていきます。オークションカタログには出品物をどのように言語化して表現しているのか…現在はIT化が進み、デジタルカタログも3Dになっていたりで、現物を見にプレビューに行けなくても出品物を自宅からネットで確かめることができます。少し前まではカラー写真入りのカタログが制作されていましたが、更に時代を遡ると文章での記述のみ。ところがその時代から現在に至るまで、鑑定士が行う記述の方法は変わっていません。つまり必要な情報を言語化して表現する、それが鑑定なのです。

鑑定というと本物か偽物かの真贋を判断する、または評価額をつける、と思われがちですが、鑑定士の仕事はそれだけではありません。

今回は、目の前に置かれたプレートとカップ&ソーサーの鑑定を行い、発表する過程でなぜそう鑑定したのかの根拠までも含めた、濃い鑑定アトリエとなりました。そして今回のお土産は20世紀中頃のスージー・クーパーのボーン・チャイナのデミタスカップ。講習会はこのように鑑定物をお土産でもらえる特典もついています。

午後は西洋美術史500年分を2時間で、という集中ゲリラのような美術史講義。西洋美術史はみなさんもちろん興味があり勉強された方も多いのですが、あらためて通史を学ぶと繋がっていなかった点と点が繋がる、そんな講義の直後に試験問題をやってみるとちゃんと解けるようになります。

2日目の午前はオンラインにて現代時事アンティーク。現代時事というと現代アートと思われがちですが、決してそうではありません。現代すなわち同時代のアートのホットな話題、そしてアートマーケットの世界を理解すること、この2つが現代時事アンティークです。アートをお金と結びつけることに嫌悪感を抱く方もいらっしゃいますが、アートといえど産業、昔からアーティストはお金を稼ぐためにパトロンである王侯貴族に仕えて居住地を変えたりしていたのですから。

そして午後の見学は、1月から東京都のまん延防止期間中にクローズしていた多くの洋館がようやくオープンしましたので、旧古河邸と庭園見学にまいりました。かのジョサイア・コンドルの設計した館、残念ながらガイドツアーはまだ行われていなかったため2階の和室は見られませんでしたが、自由見学で洋室部分をゆっくりと見ることができました。薔薇の館と言われているだけあって、薔薇の季節でないこの時期は見学者もそれほど多くなく、高低差を活かしたヨーロッパ庭園と日本庭園との見事な調和、そして満開となった桜を鑑賞することができました。

受講者のみなさま、お疲れ様でした。消化不良を起こさないように、ゆっくり復習してくださいね。

アカデメイア「60分で紐解く絵画」平らな画面のお話

19世紀末アール・ヌーヴォー時代の絵画シリーズ、第2回はエドゥアール・ヴュイヤールの『ベッドにて』を見ながら、「平らな画面はなぜ生まれたか」について学びました。

エドゥアール・ヴュイヤール《ベッドにて》

この世の世界は当然立体空間、三次元です。それをキャンバスや板など平面に描くのが絵画ですので、元々無理があります。如何に三次元に見えるか、という課題について取り組んだのがルネサンス時代の画家であり、消失点を一点に絞る一点透視図法というものが生み出されます。レオナルド・ダ・ヴィンチはあの有名な『最後の晩餐』で使用したこの透視図法(線遠近法)以外に、空気遠近法をも見出しました。それが『モナ・リザ』です。

遠近法は英語では「パースペクティブ」と呼び、よく私たちが「パースを取る」というような言い方をしますが、これは距離を取る、距離を感覚的に掴むということで、絵画だけでなくイラスト、漫画などでも広く利用されている方法です。

ところがこの遠近法は、19世紀よりだんだん「飽きられて」きます。新しい絵画の描き方、というものがもうしばらく生み出されていないのです。そこへ来て写真という技術が登場、これまで如何に本物そっくりに描くことを使命としていた絵画を脅かす存在として最初は恐れられるようになりました。また19世紀後半には開国と万博がきっかけで日本の美術が広く欧州へ紹介され、日本画(版画)に見られる俯瞰図や平面構成が新鮮に感じられるようになります。いわゆるジャポニスムが美術界・工芸界を席巻していきます。

そんな中で生まれた、ナビ派と呼ばれる一連の作家たち、彼らは絵を描くだけでなく装飾美術の世界にも積極的に関わってきますので、アンティーク好きの我々にとってとても親しみのあるアーティストたちでしょう。加えてボナールなどはジャポナールと呼ばれるほどの日本好き、日本の美術にならって立体感を排し、装飾性を強調した作風で有名です。

そして今回取り上げたこの1枚の絵画、エドゥアール・ヴュイヤールの『ベッドにて』、本アカデメイアで中山先生によりたっぷりとその見どころを学ぶことができました。

60分の解説後、「いつも印象派とナビ派が頭の中で混ざり合うのだけど、今回のお話を聞いてスッキリした」「ゴーギャンの絵は個人的にあまり好きではなかったけれど、なぜゴーギャンを師としてナビ派の画家たちがこのような作風を描くようになったのか、原点を本当によく理解できた」と、みなさんもやもやがスッキリしたようでした。

次回はルドンの1枚についてのお話です。ルドンと言えばやや気味の悪い作品が多い印象ですが、取り上げるのは美しいお花の絵ですので、ぜひご参加くださいね。

アカデメイア「60分で紐解く絵画」

オンライン海外講習、第2回は「 オテル・ドゥ・ラ・マリーヌ、よみがえった元王室家具保管所」

第1回のカルナヴァレ美術館に続き、第2回は話題注目のオテル・ドゥ・ラ・マリーヌ、パリの新アート・スポットをパリの講師とZoom中継で結ぶ講習です。

パリで有名な広場の一つ、コンコルド広場が現在の名前になるのに何度も改名された、その変遷と由来、コンコルド広場で行われた数々の歴史的な出来事について、残された版画や絵画、写真などでたどります。

そして長年一般には閉ざされていた旧海軍省オテル・ドゥ・ラ・マリーヌのあの建物は18世紀にはどんな用途で使われ、誰が住んでいたのか、革命後にどのように改修されて海軍省が使用していたのか、そして21世紀の現在、一般公開することになったきっかけやそのための改修、セノグラフィー、果ては改修に国家予算をいくら費やしたのか、建物の生い立ちから再生までをたっぷりと学びました。

<18世紀を再現したテーブルアートですが、実は19世紀と混在しています。>

今回は、まず最初に小栁由紀子先生より日本語での解説をいただいたことで、フランス語話者もそうでない方も、基本的なバックグラウンドが頭に入ったところで、実際に訪れたアンヌ・コリヴァノフ先生による詳細解説、こちらもいつものように熱が入りすぎ、また渾身丁寧な通訳も合わせると気づいたら21時となっていました。

ご参加のみなさま、お疲れ様でした。

さてフランスへの入国はワクチン接種済みなら陰性証明も不要、また14日よりワクチンパスの緩和に室内でのマスク着用義務も廃止、日本への帰国時の隔離も今月よりなくなり、いよいよ旅が出来そうかなと思った矢先のウクライナ戦争・・・早く地球上で平和が訪れますように。

60分で紐解く絵画 『19世紀末アール・ヌーヴォーの時代の絵画 』スタート!

1時間シリーズで行っている本協会主催講座のアカデメイアですが、今月より「60分で紐解く絵画」がスタートしました。第一部はアール・ヌーヴォー時代の絵画に焦点を当てて5回コースで行います。

アール・ヌーヴォーといえば、1900年パリ万博を頂点とした装飾工芸、ラリックのジュエリーやガレのガラス作品を思い浮かべますが、当然絵画も存在していました。ただ「アール・ヌーヴォー派」とは言わずに、印象派、象徴主義、ナビ派…などと美術史の呼ばれ方で括られています。

今回はそれらの絵画を「アール・ヌーヴォー時代」という1900年前後に区切って、一作家ずつ深く見ていく贅沢なコースです。

スタートを切るのは、トゥールーズ・ロートレック。ポスター画家として有名ですが、素晴らしい油彩画も多く残っています。彼の短い36年の生涯、自分の身体的ハンディギャップとの闘い、世紀末のパリ・モンマルトルの風俗、踊り子の描き方、ジャポニスムからの影響、動きを表現する基礎はいつどこで身に着けたのか…コンプリートなロートレックのお話を、中山久美子先生より伺いました。

次回は「平らな画面はなぜ生まれたか(エドゥアール・ヴュイヤール《ベッドにて》)」です。楽しみですね!

こちらよりお申込みいただけます。

第9回アンティーク検定講習・3級

この週末はアンティーク検定講習・3級を実施いたしました。オンライン組と会場組とのハイブリッドでの実施、幸い会場での公共ネット環境も問題なく、全員がリアルタイムで参加することができました。

初日は、アンティークとは何か、アンティーク以外の古物を表す言い方はどういう意味で使われているのか、といったアンテイーク世界への入り口から入り、陶磁器、銀器、ガラスについて歴史や製法などを学びます。アンティークでは必須とも言える銀器の刻印の読み方なども、ルーペを使って解読します。

オンラインの方へは予め鑑定物をお送りしており(そしてこれらはプレゼントになります!もちろん会場の方へも)、刻印だけではなく、文様のモチーフも読み解いていきます。

2日目・午前中は建築・家具から精装飾美術の様式について、バロックからモダニズムまでを俯瞰します。ルイ14世のヴェルサイユ宮殿から、フランク・ロイド・ライトのプレーリーハウスまでを駆け足で。

そして午後の見学は、重要文化財指定の自由学園・明日館。フランク・ロイド・ライトと遠藤新の設計です。ちょうど今日は月1回の解説付見学日。コロナ前までは学芸員の方と一緒に歩いて建物を見学していましたが、コロナ以降はソーシャル・ディスタンスを必要とするため、スライドを見ながらの解説です。今回は館長自らが解説してくださり、ライトの日本滞在時の裏話から保存修理にまつわる話まで、専門家ならではの深いお話を伺うことができました。

かつての食堂であった喫茶室で美味しいパウンドケーキとお茶をいただき、ディプロマ授与となりました。オンラインの方も動画視聴でこの建築物を学んでいただき、参加者全員が全過程を修了、ディプロマを手にし、またあたらしい専門家の卵が誕生しました!

今回のご参加者のお一人は、なんと現役大学1年生!これまでアンティーク検定試験を受験する大学生や卒業間近になって講習を受講された方はいらっしゃいましたが、講習に参加された中では今回最年少です。アンティークというと、ある程度年齢を経てから興味を持つ方が多い中、小さい頃から古いものに興味があってもっと色々知りたいと思ったというSさん、アンティークの魅力をぜひ継承していただきたいと思います。

ご参加のみなさま、2日間の集中講習お疲れ様でした。そして3級認定、おめでとうございます!