オークションでハンマーを叩くには?

 今週は公式海外研修でパリに来ています。
 

 今年のパリ研修では、多くの講義をオークショニアの国家資格を有する講師にお願いしています。
 

オークショニアを講師に迎えての鑑定講義

オークショニアを講師に迎えての鑑定講義

 
 オークション全体を仕切り、象牙のハンマーを叩くオークショニア、いったいどういう資格でどうやってなれるのでしょう。
フランスではオークショニアの人をcommissaire-priseur (コミサープリザー)と呼びます。数字を吊り上げてハンマーを叩くだけなんて、一見誰でもできそうな仕事に見えますが、実はれっきとした国家資格、この資格を得るのはフランスでは大変難しいのです。
 

 2000年に競売吏の資格に関する改革が行われ、現時点でこの資格を得るには、まず大学で美術史と法律の2学科でLicenceと呼ばれる、大卒資格が最低資格です(更にほとんどの受験者はどちらかでマスターの資格を有しているケースが多いです)。日本の大学と違い、分野が違えば大学1年から単位を取らなくてはならないのですから、この最低の受験資格を満たすだけでも6年はかかります。それゆえ、受験資格は26歳以上となっています。試験科目は美術史4時間、法律4時間で、形式はdissertationと呼ばれる、フランスの伝統的な論文形式。合格率は15%ほどと言われています。そして一生で受験回数は3回までしかできません。
 

 ただし、この試験はあくまでも「オークショニアになるための研修を受ける資格」試験に過ぎず、この「研修を受ける資格」にパスした後、2年間、オークション会社などで研修を受けます(この間は大抵最低賃金で雇われるケースが多い)。2年間の研修期間中、最低半年は裁判によるオークショニアの元で研修しなくてはなりません。無事2年間の研修修了後に、オークショニアとしての国家資格を与えられる最終試験を受け、パスすれば晴れてハンマーを叩く権利が与えられるというわけです。
  
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 現在フランスにはこの国家資格を有する競売吏は約500人、パリには110人ほどおり、女性はその1/10ほどです。
 

 オークショニアの資格がなぜこれほど難しいのか・・・それは、第一にオークションが公式なものであり、第二にオークショニアはオークションに関する責任を負う義務があるからです。カタログに記載されている事実が違うと判明すれば、その責任追及はオークショニアに向けられます。2000年の改革で、この責任期間は10年に縮められましたが、それ以前は30年の責任を負う義務があったのです。
 

 例えば「エミール・ガレ自身のサイン入り」と記載されていたもののサインが偽物だと後に判明した場合、そのオークションが10年以内に行われていれば、ハンマーを叩いたオークショニアが責任を取らなくてはなりません。莫大な美術史の知識が必要であり、ステータスとしては法務省の管轄化にあるため、この資格は非常に難易度の高いものとなっています。
 

 しかしながらオークショニアは法的には「専門」というものがありません。医者で言えば、オークショニアは「一般医」「総合医」であって、「心臓外科医」や「眼科医」ではないのです。従って、彼らは西洋近代絵画も扱えば中国陶磁器も扱う、果てはオセアニア原始美術からアンティーク・ジュエリーまで、といったオークションを行うわけですが、そこで彼らオークショニアと一緒に仕事をするのが、expert(エクスペール)と呼ばれる、鑑定家です。

 
 鑑定家のお話は、また次回。