アンティーク」カテゴリーアーカイブ

ピュイフォルカ、アール・デコ時代の銀器の王様

 日本人は相変わらずブランド嗜好が根強いですが、それでも広報やマーケティングのストラテジーのせいか、より有名なブランドと、あまり聞かないブランドがあります、クオリティやプライスとは無関係に。
 

 例えばクリスタル・メーカーで言えば、サン・ルイもバカラも本国フランスでは高級クリスタル・メゾン。サン・ルイは優美、バカラは豪華、とどちらも甲乙付け難いメゾンですが、日本での知名度はバカラが圧倒的です。クリスタルの発明はサン・ルイの方がバカラよりも早かったとか、サン・ルイのルイは聖王ルイ(ルイ9世)の名前をルイ15世により賜ったとか、こんな有名な逸話もあまり日本では知られていません。
 

 銀器で言えばクリストフルが圧倒的な知名度を持つ日本ですが、最上級とも言える銀器メーカーのピュイフォルカはあまり知られていません。クリスティーズやサザビーズのオークションではジャン・ピュイフォルカのアール・デコ時代のコーヒーポットやティーポットが、昨今エスティメーション価格より遥かに高い値で落札されていますが、アンティーク好きの人でも知らない人は結構います。(もっともヤフオクでは常にピュイフォルカのカトラリーは出品されていますが・・・。)
 

 実はこのサン・ルイもピュイフォルカも現在はエルメス傘下に入っており、日本でもエルメスで販売されているのです。
 

シャンパン用のタンブラー

シャンパン用のタンブラー


 

タンブラーのソーサー。タンブラーの内部にもこれと同じ紋様が刻まれています。

タンブラーのソーサー。タンブラーの内部にもこれと同じ紋様が刻まれています。

 銀座のエルメス内のシャンパン・バー(2F)では、ピュイフォルカのタンブラーでシャンパンがサービスされます。ピュイフォルカのカトラリーの型もオブジェとして店内に展示されており、他にもアール・デコ時代の復刻バージョンのコーヒーポットやティーポットなどを見る事ができます。
 

 1客10万円近くする純銀製のピュイフォルカのタンブラー、内部の緻密な模様は、シャンパンの泡が均一に立つように計算されて装飾されています。
 

 美術館に入っているものはそうおいそれと触る事ができませんが、触って使ってはじめて良さがわかる装飾工芸品、購入するのは無理でも、たまにはこんな高級バーで手に触れてみるのもよいかもしれませんね!
 


アンティークという言葉の定義

 当協会の正式名称でも使用されています『アンティーク』という言葉ですが、さて、アンティークの定義ってなんでしょうか?
 
 よく一般的に言われているのは、「100年以上前につくられたもの」という時代による括り。 
 
 これにはもちろん根拠があります。
 1934年にアメリカ合衆国で制定された通商関税法に「製造された時点から100年を経過した手工芸品・工芸品・美術品」という文面があり、そしてアンティークには関税がかからないことが明記されています。
 

 そしてこの定義がWTO(世界貿易機関)でも採用されており、加盟国間では、この定義によって100年以上前に作られたものと証明されれば、関税がかからないことになっています。
 もちろん日本もWTOに加盟しています。
 

【WTOの加盟国】
 

 
 
WTO_members_and_observers

 
 この100年の定義は、しかしながらあくまでも関税法という観点からの見方です。通関士や徴税人にとっての定義は100年ですが、一般に語られている『アンティーク』、ヨーロッパの人たちはどのように感じているのでしょう。

 
 2014年現在、100年前と言えば1914年ですが、例えばフランス、前世紀では、1920年くらいまで、すなわちアール・ヌーヴォー期くらいまでを人は『アンティーク』と感覚的に定義づけていたように思いますが、今やそれ以降のアール・デコ期の工芸品も『アンティーク』扱いをしている人たちが多いです。すなわち『アンティーク』とは、現在ではとても製造できないハンドメードの優れた美術工芸品で、芸術的価値のあるもの、という概念が一般的です。
 
art-deco
 
 イギリスでも同じく、昔はヴィクトリアン期のものまでを、大抵『アンティーク』と感じている方が多かったようですが、関税法の定義上でもエドワーディアン期は現在ではれっきとした『アンティーク』、人々の感覚も少しずつ時代と共に移り変わっていきますね。

 
 コンテンポラリーという言葉は、同時代を意味する言葉ですから、50年前の現代アートは、今ではモダン・アートに入って繰り下げ(?)になるように、『アンティーク』の概念も移り変わるものです。でもそれは、時代の括りだけではなく、やはり古くて「価値があるもの」を意味します。

 
 現在大量生産されている工業製品がなんでも100年後に『アンティーク』には入らないように、100年以上前のもの、古いもので、価値のないものは、これから多く出てくるでしょう。

 
 日本で「アンティーク屋さん」と言えば、この辺りが曖昧で、何となく西洋の古い雑貨などを扱っているお店をこう総称しますが、フランスでantiquaire(アンティーク屋さん)と言えば、高級骨董店を意味します。工芸品は必要であれば必ず修復して店に出しますし、来歴、由来のはっきりしたもののみを扱っていて、これがbrocante(ブロカント=古物雑貨屋さん)とは大きな違いです。
 

antiquaire
 
 9月にパリで開かれるアンティーク・ビエンナーレに出店しているantiquaireも、すべてこのカテゴリーの中でも最高級な由緒ある骨董店ばかり。この絢爛豪華なサロンに出店する費用がたしか1ブース辺り10万ユーロ(1400万円)、と聞いたことがありますから…。