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18世紀軟質磁器のセーヴル、その品格と希少性

 昨日5/2にTV東京で放映された「なんでも鑑定団」に、なんと18世紀のセーヴル磁器のカップ&ソーサー20点セットが出品されていました。
 

 この番組で西洋アンティークが出品される割合は、和骨董や中国骨董に比べると低いのですが、それでもときどき、「こんなものを蒐集していた日本人コレクターがいたんだ!」とびっくりする事があります。今回のコレクターもまさしくその1人。
 

 セーヴルは、現在でも国立窯として、エリゼ宮の食卓にも登場する高級磁器窯ですが、現在の、カオリンを用いる硬質磁器を製作する前は、軟質磁器を製作していました。フランスでカオリンが発見されたのは、マイセンより遅れること半世紀以上、それまではカオリンが発見されず、それでも磁器の製作に邁進するフランスでは、ルイ15世の愛妾・ポンパドール夫人によって、ヴァンセンヌ磁器工場をセーヴルへ移転し、王立磁器窯として、磁器の製作を推進していました。
 

 やがてリモージュ郊外でカオリンが発見され、ようやく硬質磁器の製法が解明されてからは、軟質磁器から硬質磁器へと移行、やがて軟質磁器製法はその役目を終えてしまいます。
 

 今回出品されていたのは、18世紀の、軟質磁器で作られたカップ&ソーサーで、18世紀セーヴルはといえば、これは本国フランスでもミュージアム・ピース。パリではルーヴル美術館のお隣にある、装飾美術館にて見ることができます。
 
 
 

 今回のカップ&ソーサー20点は、出品者が1000万円を費やしてのコレクションだということで、評価額1000万円をつけていましたが、さて結果は・・・700万円でした。というのも、中に4点、18世紀セーヴルではない、いわゆる「セーヴル・スタイル」が入っていたからなのです。
 

 スタイル、という言葉は、様式を意味します。つまりセーヴルの様式に沿って作られたもの。19世紀になって、18世紀のさまざまな様式がリバイバルしますから、19世紀につくられたセーヴル・スタイルは存在します。
 

 セーヴルは、ヴァンセンヌ時代から一貫して同じサインが入っており、アルファベットで年代が特定できます。もちろん18世紀セーヴルはその価値も高いので、偽物が存在しているのも事実ですが・・・。
 

 今回の出品作品、ルイ15世の最後の愛人であった、デュ・バリー夫人が愛用していたカップ&ソーサーや、ポンパドール夫人が病気で寝込んでいるときに使用するための、くぼみのあるソーサー付カップなど、鑑定士も「まさかこれが日本で見られるとは、思わなかった」と驚いていらっしゃいましたが、こういうコレクターが日本に存在している、というのは、西洋アンティークを愛する者としては、なんだか嬉しいですね。
 

 TV番組のコメントではないですが、「ぜひ、大切になさってください」!
 


アンティーク・デミタスカップにみるジャポニスム

 3/5(土)に、ジャポニスム振興会東京サロンにて、特別企画『アンティーク・デミタスカップにみるジャポニスム』〜村上和美コレクションで愉しむ茶会〜が開かれました。
 

 アンティーク検定試験の監修を務める、岡部昌幸先生の基調講演、そして村上和美さんのコレクションされているデミタスカップに関しての説明をしていただいた後、好みのカップでコーヒーを頂く、という午後のひとときでした。
 

 村上さんが蒐集されたデミタスカップは1400点を超えているのだそうで、1客ずつ、時代も国も形も違った、愛らしいデミタスカップのコレクションは、国内最大級。今回は、その中でもジャポニスムの影響を受けたカップが、ズラリと会場に並びました。
 
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 こちらは、わたしが頂いたデミタスカップ、コールポート窯のものです。
鮮やかなローズの色と金彩が、とても上品で、こんなカップでコーヒーを頂いていると、春の到来を待ちわびる気持ちになりました。
 
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アンティークになるかならぬか、発酵と腐敗

 古いものには、価値がある・・・と思いたいアンティークの世界ですが、古ければなんでもかんでも価値があるか、と言えば、残念ながらそうでもありません。
 

 工芸品に限って言えば、それでも産業革命以前は、どんなものでも手作りが基本でしたし、稚拙なものであっても、その希少性や、歴史的な観点からの価値は否定できないでしょう。中国からの輸入品であり、垂涎の的であった高価な磁器を真似ようと、見よう見まねで必死で作った染付けの陶器、例えば17世紀、18世紀のデルフト陶器などは、ミュージアム・ピースです。
 

18世紀のデルフト陶器

18世紀のデルフト陶器


  

 そこまでのものでなくとも、たとえば19世紀後半に、当時は大量に作られた雑器、これらはアンティークとしての価値はあるでしょうか?バカラやサン・ルイのような有名メーカーのクリスタルではなく、庶民が使用していたであろう、ガラスのグラス。気泡が入っていて、いびつな形をした、ただのグラス。半手工芸品とも言える、製品です。今現在、このようなものは、状態がよいものでも(チップや欠けがないものでも)比較的安価にアンティーク・ショップで購入できます。
 

 それでは、1960年代の雑貨は、どうでしょう。当時の流行りで作られたもの、おもちゃ、ノベルティ・グッズ。正規に購入しようと思っても、もう売られてはいませんが、ネットオークションなどで、よく出品されています。
 

 さまざまなケースがありますが、例えば食べ物に例えて言うと、古くなって腐敗するものと発酵するものがあります。魚などは鮮度が命、腐った魚など、もちろん食べられません(お腹を壊します)。一方、チーズやワイン、発酵することによって、より旨味を増し、美味しく=価値が高くなります。
 

 工芸品も、同じではないでしょうか。
 素材で必ずしも区別はできませんが、プラスチックやアルミは、時が経てば、一般には産業廃棄物です。古びて、汚くなっていきます。そこには、温かみとか、時代の良さ、といったもので評価が上がるものは、極めて少ないような気がします。もちろん希少性ゆえに、昭和初期のアルミの弁当箱といったものに、アンティークショップでお目にかかる事はありますが、目の飛び出るような値段ということはありません。
 

 ところが、時の経過と共に、風合いを帯びて味わいが出てくる素材というものがあります。
 何気ない雑貨であっても、たとえば集成材でない、無垢の木で作られたレターラックなどは、それなりに古びても愛らしさが残り、アンティークになり得る要素を持っています。
 

フランス、20世紀初頭

フランス、20世紀前半


 

 最近では、家のパーツであるドアやドアノブ、コンセントのソケットなどを、わざと古いアンティーク品の中から選んで、インテリアにオリジナリティをもたせる設計をする人がいます。ドアの金具の、古い鍛鉄でできたものは、ステンレスの軽い工業製品に比べれば使い勝手も悪く、時には構造的に狂うことも出てくるかもしれません。それでも、殺風景なステンレスよりも、味わいという点は、やはり愛らしく、そもそも暮らしのインテリアというものは、利便性や機能性だけでは決して満足できないし、美しくもないのではないでしょうか。
 

 今持っているものが、ゴミとなるかアンティークとなるか・・・それは、腐敗するか、発酵するか、の違い、とも言えるでしょう。
 

 新しくものを買いたくない、断捨離したい、という人は、腐敗するものばかりを頭に描いています。でも、中には発酵するものもある、という意識で、これから物を見ていくと、少しは変わるかもしれませんよ。