アンティーク・スペシャリストの発表

本来ならスペシャリスト全員が一同に会する機会があればよかったのですが、東京都も「リバウンド警戒期間」ということでまだまだ密になる講習会や懇親を兼ねた会食は難しいと判断し、午前と午後に分けて、オンライン参加者をも含めたハイブリッドで行いました。

発表の骨子については、下記のような内容でした。

<午前の部>(発表順)

青山 櫻

テーマ:アンティークの世界とマナーの相関関係

概要:マナーに関する書籍『気品のレッスン』を上梓、マナー講座を主催し、かつての宮廷マナーを再考察

マナーの啓蒙、普及をも生業の1つとされているアンティークショップ経営者、青山氏による海外でのマナー講習会の体験を踏まえての、テーブルマナーの各国での違い、階級、時代による違いなどについて話されました。イギリス式とフランス式の席次の違いと、それらが必ずしもその国でのみ使われていたわけではないことをドラマ『ダウントン・アビー』のシーンなどを例に挙げながら、またご自身の海外マナー研修での実地体験の様子なども紹介されながらの解説でした。

松橋 真紀子

テーマ:フォンテーヌブロー宮殿で160年眠っていた日本美術

概要:フランス第二帝政、その時代背景を中心にアートについて考察したこと

昨年6月にフランスのフォンテーヌブロー宮殿で「第10回美術史フェスティバル」が開催されましたが、その準備中に宮殿の中から日本の古い美術品が30点ほど見つかりました。急遽日仏両国の研究者が調査したところ、徳川幕府からフランス皇帝に贈られた日本の美術品だったということが判明しました。話題となったこのニュースを通し、これらの献上品についてその経緯や背景に関する綿密な年表を作成され、果たしてこれらの品々がジャポニスムやアール・ヌーヴォーへの影響となったのか、深い考察をされました。

中山 久美子

テーマ:フロウ・ブルーのカップ&ソーサーについて

概要:ブルーのにじみ加減に惹かれて購入した、イギリス製のカップ&ソーサーについて調べたこと

近年ご自身のコレクション用にご購入されたという、フロウ・ブルーのカップ&ソーサーを会場にお持ちいただき、フロウ・ブルーがイギリスのスタッフォードシャーで生まれた背景、19世紀~20世紀の陶磁器界におけるフロウ・ブルーの位置付け、装飾の特徴を詳しく解説されました。また、ウイロウ・パターン、アイアン・ストーンについても触れられ、ボーン・チャイナ一色ではなかったイギリス陶磁の一面について、お話いただきました。

関根 靖子

テーマ:館林美術館とフランソワ・ポンポンの彫刻

概要:館林美術館が所蔵するフランソワ・ポンポンの彫刻作品の紹介と、「彫刻」というジャンルが持つ特徴についての考察

群馬県館林市にお住まいの関根氏にとって地元の美術館、館林美術館が所蔵しているフランソワ・ポンポンの彫刻について、なぜ館林市が購入したのか、どのような展示がどういう意味を込めてされているのか、ポンポンのアトリエを再現した別館の様子などを紹介され、さらには踏み込んで「死後鋳造作品」に関する考察をされました。鋳造で製作される立体作品を「オリジナル」と呼ぶのか「リプロダクション」と呼ぶのか、近年になってフランスの法制化となった以前に購入していたものについて、作家の意思に反しているもの、作家が死後鋳造を認めているものなどを例に挙げ、「オリジナル」という言葉のもつ意味について考えるきっかけを示唆されました。

本協会代表:河合 恵美

テーマ:フリーポート(保税倉庫)に眠る美術品

概要:ドイツのドキュメント番組 “Freeport – The beauty of tax free storage”を視聴して感じた、現代アートコレクターのゆがみ

近年絵画オークション史上最高値がついた、レオナルド・ダ・ヴィンチの作とされる『サルヴァトール・ムンディ』の作品をその後に観たものはおらず、フリーポート(保税倉庫)に置かれているのではないかとの仮説を元に、投機家による資産の美術品化が美術品の価格を高騰させ、税金逃れともされるフリーポートに所蔵される、というドキュメンタリーを視聴。名作が一般の人々の目に触れられない事態となっている不幸な事実に目を向け、しかしながら美術品が公共のものであるという概念は19世紀以降に誕生した考えであり、それまでは宮廷内で王侯貴族しか触れられなかった事実と共に、現代の美術品のあり方についての様々な考えを示唆しました。

<午後の部>へ続きます。