アカデメイア」カテゴリーアーカイブ

読書会:マンガでわかる「西洋絵画」の見かた 聖書編・第2回「画家とキリスト教」

猛暑がもう1ヶ月以上も続き台風までボコボコ発生する日本列島ですが、今日は8月の最初の協会の活動(!)、オンライン読書会でした。

前回に引き続き、まだ聖書の中には入らず「画家とキリスト教」という章を一緒に読み解いていきます。受講者のみなさんはもともと美術史をある程度学ばれている方なので、「知っている絵」「見慣れた絵」をあらためて取り上げ、どのような場面がどういうテクニックで描かれているのか、をあらためて中山久美子先生に解説していただきます。

本書の第2章にあるマザッチョからホルマン・ハントまでの8人に、フラ・アンジェリコとモーリス・ドニを追加した10名の画家たち、それぞれの聖書との向き合い方が絵画にどのように描かれているのかを見ていくのですが、如何にもキリスト教絵画でございます、という聖母やイエスがわかりやすく描かれているものから、え、これのどこがキリスト教絵画?という作品まで、数百年のキリスト教絵画を俯瞰しました。それぞれの画家にとってキリスト教との温度はというと、修道院に滞在してどっぷりキリスト教に浸かった画家から殺人を犯した犯罪者まで、実にさまざまです。

マザッチョ「貢の銭」

この1枚の絵画に聖ペトロがなんと3人も描かれています。どこで何をしているか、わかりますでしょうか?異なる時間帯を1枚の絵に描くテクニックは「異時同図法」と呼ばれます。

初期ルネサンスの頃から如何に平面であるキャンバス(または板、壁)に三次元の世界を描くかのテクニックを追求していった西洋絵画ですが、19世紀の後半にきて、ゴーギャンやドニのように平面的へと回帰していく作品が現れます。写真が登場した19世紀、画家たちは如何に本物そっくりに描くかという使命から、何を表現するのか、という内面的な絵画の本質へと自問していく時代になったのでしょう。

ポール・ゴーギャン「神の子の誕生(テ・タマリ・ノ・アトゥア)」

次回より、いよいよ旧約聖書の世界へ入ります。聖書は用意しなくても大丈夫、旧約聖書に登場するシーンはどのように絵画に描かれているのか、一緒に見ていきましょう。

本読書会は途中回からの受講も可能です。また過去の回もオンデマンドでの視聴が可能ですので、この機会にキリスト教絵画の見かたを学んでみませんか?


新シリーズの読書会・マンガでわかる「西洋絵画」の見かた 聖書編、いよいよスタート!

コロナ禍で思うように集まれない中、こんな機会を利用してオンラインで西洋美術史を通史で学ぼう!という試みの読書会「ぜんぶわかる西洋美術史と、さらにわかる絵画で読み解く装飾品」が2020年~2021年にかけて全15回で行われました。このときは多くの方が、時には海外からも参加していただき、オンラインでこその高画質デジタルで作品を観ながらの有意義な1年半に渡る読書会でした。

その後も引き続き絵画や装飾品についてのオンライン講座を細分化したシリーズで行っていますが、この7月より新シリーズの読書会がスタートしました。日本人にとってはどうしても敷居の高そうなキリスト教主題の絵画、何度解説を聞いてもしっくりこない…そんなみなさんの悩みをわかりやすく解決すべく、取り上げる書籍も『マンガでわかる「西洋絵画」の見かた 聖書編』、マンガやイラストがふんだんに盛り込まれていて、とても楽しい教材です。

(池上英洋監修 誠文堂新光社)

ナビゲーターは前回同様、当協会スペシャリストで西洋美術史研究者でもある中山久美子先生。ご自身もカトリックの洗礼を受けられている信者でもあり、聖書の主題やストーリーがどのように絵画に描かれているのかについて、やさしくわかりやすく導いてくださいます。

さてその第1回は、イントロダクション。きほんのき、で「聖書」って何?から始まり(これ、あらためて「聖書とは何か、完結に200字で説明せよ、と問われてスラスラ答えられる日本人がどれだけいるのか…みなさんも自分の頭の中でまとめてみてください、ね、意外とまごつくでしょ!)、次にヨーロッパ文化とキリスト教の関係性の流れ、そしてキリスト教が絵画にどのように描かれていくのかの変遷を、時代を追って初期キリスト教美術から20世紀まで一気に駆け巡りました。

紹介される絵画はどれも一度は見たことがある、画集に載っている、という有名どころばかり。でもこうしてあらためて聖母マリアやキリスト、聖人たちの描かれ方に注目しながら見ていこうとすると、聖書のストーリーを分かっていないと100%楽しめない、「聖ナントカは何をした人なの?」「なぜこの人が出てくるときは一緒にこのオブジェが描かれるの?」という疑問にブチ当たります。

この読書会では、そんな日本人のアレルギーとも言うべきキリスト教絵画を主題や聖人の役割などを、1つ1つ紐解きながら読み解いていく読書会です。

今回はイントロダクション、そして次回は「画家とキリスト教」の関係について。まずは大きな枠組みをざっくり理解した上で、第3回より旧約聖書の世界に入っていきます。

コロナの行動制限もなくなり自由に外に出られるようになった今、一部に「オンライン疲れ」もあるようですが、ご都合のつかない方はオンデマンドでもご視聴いただけます。引き続きお申し込みをお待ちしています。

読書会・マンガでわかる「西洋絵画」の見かた 聖書編


アカデメイア ジュエリーシリーズ「フランス初代大統領夫人のシャトレーヌウォッチ、ブレゲの時計」

いよいよ「宝飾品 ~肖像画の中にみるジュエリー~」講座最終回となりました。時代ごとに肖像画を鑑賞しながら、その肖像画に描かれているジュエリーについて深めていく講座、G.I.A.G.G.の資格を持つ目黒先生ならではの、宝石そのものの理解にもフォーカスしています。

ただし今回の宝石は「鉱物」「石」ではありません。シャトレーヌウォッチです。シャトレーヌって?

聞きなれない方もいらっしゃるかもしれません。シャトレーヌという言葉が初めて登場したのは1828年のイギリスのファッション雑誌の掲載によるものですが、この言葉の意味するジュエリーは18世紀からありました。

V&A 所蔵 シャトレーヌ 1850年ごろ

シャトー(城)が起源のシャトレーヌ(女城主)に由来し、鍵をはじめとしてアクセサリーを吊るす形態なのですが、これもさらに深掘りしていくと、古代ギリシア・ローマ時代の衣服に腰紐の飾りという文化があり、ルーツはそこまで遡れるのではないか、というのが目黒先生の発見。本当に歴史って面白いですね。何かが創作される際、ゼロから生まれるものはほとんどなく、必ず潜在的に過去の文化の影響を受けている、と考えると、アンティークの存在は現代の創作にも結びついていくわけです。

今回の「シャトレーヌウォッチ」とは、シャトレーヌにぶら下げた時計で、時計もジュエリーの一種なのですね。(ちなみに置き時計、掛け時計は装飾美術の分野としては家具の扱いになります。)ジュエリーを制作するジュエラーにとって、このシャトレーヌは腕の見せ所でもあったようで、従来の金銀細工師としてのプライドを満足させるアイテムだったようです。

今回の肖像画はエリーズ・ティエール。この名前を聞いて「ああ、あの人」とわかる人はほとんどいないでしょう。フランス第三共和政の初代大統領夫人です。そもそも初代大統領ですら歴史上の有名人とは言い難いのですが…。

この何気に地味な大統領夫人ですが、夫(つまり初代大統領)は研究者でもあり、その夫の功績が現在パリ9区Saint-Georges広場に19世紀フランス歴史専門の図書館(「ドヌズ・ティエール財団」)として現在も残っています。そしてこの図書館の建物こそが、大統領夫人エリーズ・ティエールの結婚時の持参金だったという、フランスの典型的な「持参金付妻と裸一貫の夫の玉の輿婚」だったようですね。そして妻による経済支援を得ているにもかかわらず、これまたよくありがちな、夫の方は婚外女性関係をあちこちで築いていくのですが、政治の妨げにはならなかったのでしょうか。フランスならではのエピソードがこの人にも!

さて、大統領夫人エリーズ・ティエールはお金持ちだったので(その割に普段の生活は「ケチ」だったというエピソードも)、ジュエリーも熱心にコレクションし、特に天然真珠は一粒ずつ集めていたよう。スペイン女王イザベラ2世から送られたとされるパールのネックレスは、1924年のオークションでも話題になりました。

ちなみに夫人の死後、多くのジュエリーが夫人の妹によってルーヴル美術館へ寄贈されています。現在ルーヴルの収蔵品目録よると1257点あり、ジュエリー以外にも陶磁器や東洋の工芸品なども含まれているようです。

そして夫人が所有していたシャトレーヌ・ウォッチ、現在はショーメの所蔵品となっていますが、ここからブレゲの時計の話、ブレゲといえばマリー・アントワネットが注文主であった幻のN.160の話、ジュエリーメゾンのショーメがブレゲの復活を手がけたという話、とどんどん深い話になっていきます。

見逃した方、オンデマンドでぜひお楽しみください。

またアーカイブ講座としても第1回よりご視聴いただけますので、これを機にジュエリーについて学びたい方も後追い大歓迎です。

さて、一旦ジュエリー講座は今回これで終了となります。目黒佐枝先生、5ヶ月に渡っての充実した講座を本当に有難うございました。


アカデメイア「19世紀 ナポレオン三世の妃ウージェニーのエメラルド~謎に包まれたアンデスの十字架を題材に、エメラルドについて~」

大好評のアカデメイア・ジュエリー講座第4回はエメラルドについて。すでに真珠、ダイヤモンド、カメオとやってきましたが、今日は色石エメラルドに関するお話です。コロンビアのエメラルド・ハンターなんて現代のアクション映画になりそうな題材ですが、さてエメラルドとはどんな宝石で、歴史的にどのようなものが有名なのか・・・謎に迫ります。

まずは、フランス皇后ウージェニーについて。言わずと知れたナポレオン3世の皇后です。ウージェニー皇后はこの第二帝政時代のいわゆるインフルエンサー的な存在、かつて18世紀のマリー・アントワネットのようにモードや宝飾品の発信者でもありました。この女性の生い立ち、そしてナポレオン3世と結婚するまでのストーリーが目黒先生の語りにかかると面白く、声の小説を聞いているよう。それで?それで?と続きにワクワクします。

ウージェニー皇后の肩書きで知られていますが、皇后であったのは結婚した1853年から帝国崩壊の1870年まで。そしてこの崩壊から実に半世紀も彼女は生き続けます。皇后時代の3倍もその後の人生があったわけで、亡命生活とは言ってもヴィクトリア女王に良くしてもらったり、カンヌに別荘を購入したり、と元皇后の暮らしぶりなどにも非常に興味そそそられますが、そろそろ話題のエメラルドへ入りましょう。

今日のお題は「アンデスの十字架」。スペイン王室に由来したエメラルドと言われ、45カラットの一塊で切り出された十字架です。

これを一体いつウージェニー皇后が手にしたか、2種類の仮説が考えられ、1つはヴィクトリア女王の日記から、もう1つはメッテルニヒ夫人の回想録から推察します。

そしてこのアンデスの十字架の所有者の系図を遡っていくとイザベル1世へ辿り着き、現在の所有者であるスペインのベアトリス王女の娘に至るまでに数多くの女王や令嬢、宝飾店カルティエや大富豪鉱山主の妻に渡ったことまで、細かく解説をしていただきました。

これほどまでに多くの女性を魅了したエメラルドという宝石は、そもそもどうやって作られるのか、エメラルドの鉱床の種類、世界のエメラルド産出国の分布などについても学びます。この辺りのお話はさすがG.I.A.G.G.の資格をお持ちの目黒先生ならではの説明、宝石学校並みの知識をこのアカデメイアで披露していただけました!

大航海時代と新大陸発見による新世界・コロンビアのエメラルド、今はエメラルドといえばコロンビア産が有名ですが、かつての旧世界であるエジプト、オーストリアからもエメラルドは産出されており、非常に価値のあるものでした。希少なだけに大切にされてきた歴史的背景があります。そんなお話をいただいた後・・・

お宝といえば沈没船、海に沈んだ財宝の話にはワクワクしますね。沈没船から見つかったエメラルドを散りばめた十字架についても興味深いお話をいただきました。

この講座を後からでもいいから視聴したい!という方、オンデマンドにてのお申し込みも可能です。

次回はいよいよ最終回、シャトレーヌウォッチ、ブレゲの世界へ迫ります!


マラカイトのパリュールの謎とカメオ

アカデメイア「宝飾品 〜肖像画の中にみるジュエリー〜」第3回、肖像画はデジレ・クラリーを取り上げました。デジレと聞いて、ああナポレオンの元婚約者で後にスウェーデン王妃になった人だ、とわかる人は相当の歴史オタクでしょう、日本では一般にほとんど知られていない人物といってもよいと思います(日本語ウィキペディアは作成されていますが)。

デジレ・クラリー

元デジレが所有していたこの美しいマラカイトで作られたパリュールは代々デジレの子孫に受け継がれていった後、1913年からノルディック博物館にて収蔵されています。ところがデジレがこのパリュールを身に着けて描かれている肖像画は今のところ見つかりません。

デジレのパリュール(現ノルディック美術館所蔵)

そもそもマラカイトのパリュールというのは非常に珍しいものです。それが高価だからという理由ではありません。マラカイト自体が宝石の中で特に価値のある石という訳ではなく、むしろ柱などの建材に使われるような素材。当時のヨーロッパの一国の王妃がパリュールを注文しようと思ったら、他にも高価な鉱物は沢山あります。マラカイトのパリュールというのは、宝石業界に長くいらっしゃる目黒佐枝先生も、ナポレオンの最初の皇后ジョゼフィーヌのパリュールと、デジレのパリュール、この2つしか見たことがないと仰っています。

ジョゼフィーヌのパリュール

今回の「謎」とは、いったいデジレはこのパリュールを身に着けたことがあったのか否か、もしかしたら自分との婚約破棄をしたナポレオンが結婚した相手ジョゼフィーヌがマラカイトのパリュールを作っていたので、自分も対抗してただ作らせただけではないのか、件のパリュールはスウェーデン王妃になった翌年から10年間くらいの間に製作されており、その時点ではジョゼフィーヌもこの世を去っている、自分はジョゼフィーヌに勝ったのだ、という証として作らせたのでは・・・と色々想像が膨らみます。

マラカイトという鉱物について、カメオやインタリオの歴史も含め、宝石学レクチャーもいつもながらのコンプリートな解説で、あっという間の1時間半でした。カメオも2層だけでなく、8層まで存在するのだとか。今回は4層、5層の作品を見せていただきました。

「人は嘘をつくが、ものは真実を語る」と言われますが、ものの中でも宝石は色々なストーリーが想像されて、更なる好奇心が沸き起こってきますね。

次回はウージェニー皇后とエメラルドについてのお話をいただきます。