アンティーク検定講習・2級 <後半の部>

前半に引き続き、後半も三連休の中の土日で第13回アンティーク検定講習・2級が開催されました。後半3日目の講習・1限目は、西洋美術史の続き、バロックから20世紀初頭までを俯瞰していきます。ようやくなじみのある絵画や画家の名前が登場してくる時代になってきました。西洋美術史は社会学や経済学と併せて見ていくととても面白い見方ができるのです。

2限目はモード史。モードというのはフランス語で「流行」のこと、英語で言うところのfashionです。流行を作っていったのは誰だったのか、それはどのような時代にどのようなスタイルで誕生したのか、モード史についてヘンリー8世の衣装からシャネル、ディオールまでを見ていきました。

お昼をはさんで3限目は、アンティークショップ『アンティークス・ヴィオレッタ』の店主でもあり当協会認定アンティーク・スペシャリストでもある青山先生によるショップからの配信で、アンティークジュエリーの歴史を学びます。『アンティークス・ヴィオレッタ』さんでは主にイギリスから仕入れられたアンティーク・ジュエリーが店頭に並んでいます。ジョージ1世からエドゥワード8世に至るまでのイギリスの王室の歴史とともに、身につけたジュエリーを紐解いていきます。

4限目では、アール・ヌーヴォーとアール・デコのジュエリー、そしてコスチューム・ジュエリーについて、こちらは実際の商品を今回はふんだんに見せていただくという贅沢な講習でした。

4日目、5-6限目はアール・ヌーヴォー&アール・デコについて。それぞれどういうムーブメントだったのか、いつ、どこで興った様式で、なぜ廃れたのか、そしていつリヴァイヴァルしたのか、この20世紀の二大様式をまとめてみたところで監修者・岡部先生より「日本における1920−30年代の建築」に関してもお話がありました。

最後の見学は、世界的に認められたアール・デコ建築邸宅である旧朝香宮邸、現東京都庭園美術館の開館40周年記念「旧朝香宮邸を読み解く A to Z」を岡部先生の解説で周りました。あいにくの雨で気温も低かったのですが、みなさんの好奇心の方が強く、傘を刺して茶室や庭の高台へもしっかり歩き、そして邸宅内での装飾品・調度品をじっくり解説をいただきながら鑑賞。

雨のおかげで見学者も少なかったので、いつもは並んで順番待ちをするカフェへも待ち時間ゼロで入れ、無事ディプロマ授与式も終えることができました。

受講者のみなさま、4日間の講習お疲れ様でした。そして修了おめでとうございます。次は1級を目指してぜひこの世界を引き続き堪能していただけますように。


海外研修関連講座:「リモージュの魅力」Vol.2

先月に引き続き、今月のアカデメイアは「リモージュの魅力」第2回でした。前回は19世紀までのお話をしましたが、今回は20世紀のリモージュ。

20世紀の二大様式と言えばアール・ヌーヴォーにアール・デコ。リモージュも敏感に反応します。アール・ヌーヴォー期には流れるような曲線のテーブルウェアが、アール・デコ期にはジェオメトリックで様式化された、シャープなデザインの食器が作られます。

そしてこの時代になると、芸術の他分野(画家、彫刻家、ポスター画家、イラストレーター)で活躍しているアーティストたちも、リモージュの窯とコラボレーションしていきます。エドゥワール・コロンナ、ジョルジュ・ドゥ・フール、ポール・ジューヴ、アントワーヌ・ブールデル、エドゥワール=マルセル・サンドス、ジャン・デュフィ、シュザンヌ・ラリック…

リモージュ生まれのカミーユ・タローというセラミック・アーティストが活躍するのもこの時期。エナメルの絵付けを用いた大胆な花柄紋様のフラワーベースはアイコニック的な作品です。タローといえばジロー、というわけで(!?)リモージュにはアンドレ・ジローという人もいました。André Giraud & Brousseauの作品はニューヨークのMoMAにも所蔵されています。

20世紀後半、戦争で疲弊したリモージュでは多くの窯が廃窯となりました。戦争だけでなく、人々の生活や価値観も大きく変わってしまったのです。もう人は食器で豊かさをマウントすることもないし、何百点ものセルヴィスを買うのは時代遅れになります。それでもリモージュの磁器産業を絶やしてはならない、現代のセンスと共にリモージュも共存していくのだ、という気持ちがあったのでしょう、コンテンポラリー・アーティストであるアルマンやセザールらとコラボをしたり、エルメスと共作したり、話題を作っていきます。

そんな中で「リモージュ・ボックス」が生まれます。もともと18世紀に貴族の間で流行った嗅ぎタバコ入れやドラジェ入れ、つけぼくろ入れといった小箱の文化は19世紀に貴族の消滅と共に廃れてしまいました。それらを復活させよう、として1960年代に生まれたのが、すべて手作りで1点1点作り上げるリモージュ・ボックス。このリモージュ・ボックスには世界中にコレクターがいます。開けてみると、あっと驚くような仕掛けがしてあったり、細かい部分が実に精巧に演出されていたりで、なんとも愛らしい!これは場所を取らないし、可愛いし、滅多に割れたり壊れたりもしないのでコレクションしやすいかと思います。ただ凝ったものはそれなりのお値段ですが。

2回に渡って行いました「リモージュの魅力」は今回で終了です。

3月のアカデメイアは海外研修のためお休みとさせていただきます。

4月から新アカデメイア「読書会:『マンガでわかる「西洋絵画」の見かた 聖書編』第2期」がスタートします。5月には教会見学も入っています。ご受講をお待ちしています。


日本銀行本店内部見学ツアーへ!

AEAOサロン倶楽部・2月の会は日銀内部見学に参加しました。1896年、辰野金吾の設計で竣工した本館は外観だけでも圧巻ですが、その内部に入ったこともある人は限られているでしょう。今日はAEAOサロン倶楽部でこの内部ツアーを企画したところ、申込初日に満席となり、増席した数もあっという間に埋まってしまいました。

受付時間は10分間と限られており、1ヶ月前にすでに日銀側へ伝えてある氏名を身分証でチェックされます。まずは中庭に入り、ここは写真撮影可能エリア。ただ狭いのでパースが取れず全体像が収まりません、(後から説明があったのですが、ここはかつて紙幣を運んでいた場所でもあり、敢えて狭いスペースで四方を囲んで、逃げられないように(!)していたそうです。)

建物内に入ってすぐのエリアでX線検査を受け、まるで航空機に搭乗する並のチェックです。

内部に入ると、まずは10分ほどのビデオで日銀の誕生や日銀のしくみについてのレクチャーを受けます。その後2階(といっても通常の建物とは天井高が違うため、実感としては4階分くらい?)に階段で上がり、歴代の日銀総裁の肖像画のエリアへ。絵画館のような会場で何人かの歴史に残る総裁の説明をしていただきましたが、もうすぐ新1万円札になる渋沢栄一の孫である渋沢敬三の肖像画もありました。この人だけ、他の総裁の肖像画と背景が異なり外の風景なのです。東京大空襲で焼け野原になってしまった東京を敢えて背景に用いて、忘れないようにということだったようです。

本館の模型を見ながら、今どこにいるかを確かめると、ドームの真下に!このドームはかつては窓があり彩光が下まで届くようになっていたようなのですが、関東大震災で焼失し、復旧工事の際に窓が塞がれて飾り窓となったようです。かつてはこのドームの部屋で総裁がお仕事をしていたようですが、舞踏会が開催されていた、と聞いても信じてしまうほどの部屋。残念ながら写真撮影は禁止エリアです。

その後はエレベーターで案内され、創建当初の地下金庫へ。建物の地下の構造がなんとガラス床から覗けるのですが(高所恐怖症の人にはかなり厳しい!)、関東大震災でも倒れなかったこの建物、上部は石とレンガ作りですが基礎工事部分にはすでに当時コンクリートが入っており、さらに近年免震工事を行なって補強しているということで、今この場で地震が起こったとしたら、この場が一番安全なのでは、と思いました。

地下金庫の扉について、イングランド銀行で使用されていたホッブスハート社の扉を輸入、拡張後に使用したのはアメリカ製の金庫扉、やがてそれを元に国産の金庫扉が作られたとのこと。またかつては現金をトロッコに載せて搬送していたため、トロッコレールの跡も残っており、このレールはフランス製。欧米を真似ることから始めてやがて日本独自のスタイルを作り上げていく明治の政策がこんなところにも表れているのですね。

ところで1億円は何キロになるのか、実際にどのくらいのボリュームになるのか、なんてのも体験できるコーナーがありました。1億円は10kgなのですが、10kgの米俵は持てなくても1万円札なら持てそう!?

最後に1階の客溜の空間で写真撮影タイム、コリント様式の柱頭やらステンドクラスやら、アール・デコ調の照明やらかつてのデスクやらを鑑賞したところで正午の拍子木が鳴り、終了。

最後にスタッフさんから裁断されたお札の屑の一部をもらいます。かなり高尚なジグゾーパズルですが、破損したお札は面積が3分の2以上の場合は全額として引換えてもらえますが、5分の2以上、3分の2未満の場合は半額、5分の2未満の場合は残念ながらゴミとなってしまうそうです。

見学後は歩いて10分ほどのカフェ・ル・フォションにてデギュスタシオン・コースのランチをいただき、楽しく懇親しました。今日始めてサロンにご参加された方々も楽しんでいただけたでしょうか。

3月は「皇居三の丸尚蔵館でみる明治のラグジュアリー」です。


アンティーク検定講習・2級<前半の部>

3連休の週末ですが、土日は第13回アンティーク検定講習・2級が開催されました。先月の講習で3級を修了された方、また昨年のアンティーク検定試験で3級を合格された方が今回2級に臨みました。3級ではそれぞれ「入門」に過ぎなかった各分野の知識をもっと深めていきます。

午前の講習・1限目は、まずテーブルウェアの歴史を「美しいフランステーブルウェアの教科書」を参考に学びます。多くの人がアンティークに興味を持つきっかけがテーブルウェア。でも一体いつから今の洋食器の歴史が始まったのか、そしてどのようなアイテムがかつて存在していたのか、「フランス式サービス」「ロシア式サービス」の違い…500年のテーブルウェアの歴史について俯瞰してみました。

2限目は「鑑定とは何か」について。よくオークション・カタログに書かれている内容は、一体何が書かれているのか、そもそも「鑑定」とは何をすればいいのか、真贋を当てること?それとも値段? そんな鑑定の基礎をいきなりですが「英語で」行います。クリスティーズ・ニューヨークのオークション鑑定士のdescriptionを学んでいきます。

ランチ休憩はこのところ講習者さんの間でも評判の高い「ワイン&スパイス」、もちろん午後もあるのでワインはお預けですが。

午後の3限目は銀器を刻印だけでなく意匠と様式から読み解くレッスン、そして実際に受講者さん用の鑑定品を同じように刻印と様式から鑑定していきます。

4限目は複製芸術について。版画や写真の分野ですが、これもアンティークの分野に入るのですね。講師のコレクションであるファッション・プレートを見ながら版画の手法についてのお勉強。

2日目はオンラインにて。5限目は現代時事アンティーク。過去4年分の1級の検定試験問題と2023年のArt Market Report(Art Basel &UBS発行)を見ながら現代のアートトピックスやマーケット事情についての考察。6限目は西洋美術史をルネサンスから18世紀初期までに絞って学びました。知識の引き出しがもうパンパンになってきた頃でしょうか。

そして前半の外出講座は迎賓館・赤坂離宮。

首都圏に住んでいる方でも、実は来たことがないという人たちが結構います。それもそのはず、一般公開されてまだ10年も経ってないのですね。

建築や家具の様式というものを学ぶのにうってつけのこの宮殿、前回も含め何度か検定講習で見学していますが、最近の試みで一部のエリアに限って写真撮影が実験的に許可されており、ちょうどその日に該当していました。この日はアンリ2世様式(フランス・ルネサンス様式)とされる「花鳥の間」が装飾品に限って撮影可能となっていて、濤川七宝を写真に収めることができました。

2月にしては暖かく、主庭の噴水も勢いよく水が噴き出していて、気持ちのよい日曜の午後でした。

後半の講習は2週間後です。それまでに引き出しの整理をちょっとしておきましょうか。


建物見学・お茶の水 〜ニコライ堂と、さようなら山の上ホテル〜

1月のAEAOサロン倶楽部は、お茶の水界隈の建物見学を実施いたしました。2023年10月に、山の上ホテル休館の発表が出てすぐに山の上ホテル見学ツアーを計画したのですが、残念ながらパーラーやレストランの予約は取れず、でも休館イベントと称し、館内で歴史展示をしていること、山の上教会を開放していて見学できることから、本日無事催行できました。

まずは懇親会を兼ねたランチ会&ミニレクチャーでスタート。主催者が集合時間の2分前に到着すると、もう参加者さん全員が席に着いていらっしゃいました(スミマセン!)。サロン倶楽部は毎回メンバーが流動的ですが、目的や趣味が似通っているのか、すぐにみなさんで仲良くなります。今回のランチは大学が集まるお茶の水エリアにふさわしい、中央大学構内にある高台で見晴らしのよいレストラン、その名もそのまま『Good View Dining』にて。昨今では大学もおしゃれなレストラン施設を構えているところが多いようですが、意外と穴場ではないでしょうか。特別なコースランチを予約していたのですが、味もサービスも申し分なく、贅沢な空間と19階からのすっきり晴れた空の眺めで美味しくいただきました。

食後は本日のメインとなる見学地の一つ、ニコライ堂へ。ニコライ堂は通称で、正確には東京復活大聖堂教会と言います。ハリストス正教会のハリストスとはキリストのギリシア語読み。ニコライ堂の名は、1861年にロシアより函館へ来日し、正教を日本に伝えにやってきたニコライ・カサートキン司祭の名に由来しています。

1891年に竣工したこの建物はジョサイア・コンドル氏の設計ですが、1923年の関東大震災で被災します。ドームは崩壊し、イコノスタシスは焼損、わずか土台と煉瓦壁のみ残ったそうですが、建築士・岡田信一郎の指揮のもと、6年後の1929年に現在の形に復興します。ビザンティン様式の建物の特徴であるとされるドーム、正方形、八端十字架、イコンがこの大聖堂に表れています。

外観は写真が撮れますが、内部は写真撮影禁止、拝観料を払うといただけるパンフレットを見ながら、すべてを脳内に焼き付けてきました。聖堂内にいくつかあるイコンは原則に従って無署名のため、制作者がはっきりは断定できないということですが、帝政ロシア時代のサンクトペテルブルクに渡って学んだイコン画家・山下りんの作品と思われるイコンについて聖堂内のスタッフの方からお話をいただきました。明らかに他のイコンとは筆致が異なる、これは彼女のものでしょう、と。

見事な装飾の大聖堂教会を見学した後は、続いて2月13日で休館となる山の上ホテルへ。緩やかな坂を登っていくと、レトロ感ムンムンの山の上ホテルが表れてきます。「文化人のホテル」と呼ばれ、川端康成、三島由紀夫、池波正太郎、伊集院静などの名士らが好んで利用したとされるホテルですが、2019年にリニューアルしたばかりなのになぜ休館となってしまうのでしょうね。

館内レストランの中で唯一予約制でなく、整理券を引いて待つと入れるコーヒーパーラー・ヒルトップはさすがに到着した時刻では20時までの案内も終了ということでしたが、最後に内部を見学したいという人々の要望に応じて「休館イベント」が開催、創業70年間の山の上ホテル歴史展示が館内で行われていました。資料や家具などをあちこちにアール・デコの装飾がさりげなく表れる館内でたっぷり鑑賞させていただきました。

そして今回は結婚式でしか使用できない山の上教会も開放しており、暖かい陽だまりの中でチャーチをゆっくり見学できました。1月とは思えない暖かく晴れた日の見学で、本当に最後に来られてよい思い出となりました。

ご参加のみなさま、今日はよく歩きましたね、お疲れ様でした。